新宗教さん、ぜひ介護業界へ

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 大学時代、PL教団のある市の近くに住んでいました。高校野球で桑田・清原・立浪らを輩出したPL学園が有名ですね。
 ビンボー生活がたたって栄養不足から肺炎になり、とりあえず電話帳で近くの病院を探したら、PL教団の経営する病院が自転車で行けそうだったので、そこで治療してもらいました。
 幸い入院にまでは至りませんでしたが、毎日通って点滴を打ってもらっていました。ベッドに横たわると、教祖様と思われる方のでっかい写真が目に入り、それを拝みながら点滴されてました。あまり経験することがないからシュールだなー、なんてポケーッと考えていました。

 どうしてそんなことを思い出したかというと、山田直樹『新宗教マネー』(宝島社文庫)という本を読んだからです。
 「課税されない「巨大賽銭箱」の秘密」との副題、「宗教特権を斬る!」というオビの文から想像されるようないかつい本ではなく、軽めの新書で、忙しいさなかでも短時間で要点を摑みながら読むことができました。
 著者は「週刊文春」の元記者で現在はフリーライター、創価学会についての著書もあります。主な論点は、宗教法人法で「認証」(「認可」ではない)された法人が、税の減免が認められることの是非で、具体例を挙げながら読者に問いかけるという、なるほど週刊誌の記事のような手法がみられます。
 創価学会に対する批判的記述が多く出ていますが、私はそこはあまり気にはしませんでした(何人もの学会員と話をする機会があって、その人たちの生の話のほうが興味深かったから)。

 むしろ、私が興味を惹かれたのは、宗教団体の巨額の資金の具体例です。
 例えば、昨年、幸福の科学を母体とした政党「幸福実現党」が立候補し、全員落選、供託金だけで11億5800万円を支払いました。著者の試算では、80~100億を選挙資金として使ったとされています。
 それから、真如苑が皇居のすぐ近くのホテル跡地を買収した話など。真如苑は、日産村山工場跡地も買収しており、他にも運慶作の仏像を13億で落札しています。
 創価学会は定期預金を何本かに分けて運用しているそうですが、一本解約されると支店長が左遷されるなんて話も出てきます。金融機関にとっては、この低金利時代に宗教団体は「おいしい融資先」なのだそうです。

 先のPL教団に限らず、多角経営をしているところはかなりあります。学校や美術館を持っているところは多いそうです。ある宗教団体が20億円でダ・ヴィンチの作とされる美術品を購入したところ、実は価値はほとんどなく、詐欺にあったようなものだったともありました。
 他にもレジャー施設や演劇団体、観光業なども営んでいる団体もあります。
 本来ならばこれら「収益事業」は営利目的だから法人税(30%)がかかるはずなのに、宗教団体には「公益性」があるとして減免措置が取られている(22%)わけです。このような「宗教特権」はいかがなものか、と著者は問題提起しているのですが、筆者はこうも書いています。

 「PL教団にしても天理教にしても、(中略)スポーツ施設や学校など、行政と一体となって発展してきた様子が窺える。(中略)それに較べ、行政がいかに貧しかったかを示す証拠でもあるだろう。宗教が俗世に救いの手を差し伸べたと言えるかもしれない」(p.75-76)
 「戦後日本で枯渇していたのは、芸術であり医療でもあった。その“痒いところ”まで手が届かんばかりに、行政に先駆けて“ツール”をそろえたのが、彼らだった」(p.76)

 だから正当化されるということではありませんが、そういう面があったのは事実です。「貧」「病」「争」からの克服が新宗教の発展のインセンティブだとすれば、確かに必要だったかもしれません。

 さて、そこからが本題。
 是非とも新宗教・新興宗教には、介護事業をはじめとする福祉分野の事業を手掛けてもらいたいのです。
 現代でも福祉行政はお寒いばかりですし、「こころの“”しさ」「心が“”んでいる」「誰もが巻き込まれる終わりなき競“”社会」と、新宗教が勢力を伸ばした高度成長期以前と負けず劣らずの荒涼とした社会に我々は生きています。
 そこで手を差し伸べるのが、真の聖職者だと思うのです。

 2000年より公的介護保険制度がスタートし、「国民皆介護」制度ができましたが、それでもなお、介護をめぐる悲惨なニュースが報じられています。最近でも著名なタレントが介護疲れで自殺したり、介護に専念していたミュージシャンが精神安定剤を大量摂取したのではないかという報道がありました。
 また、民間が参入できて競争原理が働いているように見えますが、不正請求事件のコムスン(グッドウィルグループ)のようにひどい業者もあり、また、マスコミにもたびたび登場する有名な社長の事業者でも、報道こそされないまでも、内実はどうしようもなく従業員が定着しないところもあります。
 現在の介護制度は、行政では不十分で、営利企業ではあまりに心もとない、谷間のような領域です。

 というわけで、PL教団でも、真如苑でも、創価学会でも、立正佼成会でも、天理教でも、どこでもいいから、金がダブついている教団は、ぜひとも介護業界へ。宗教ネタはおちゃらけが多い私にしては、今回は珍しくマジメです。



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