2014年11月22日07:28
朝日新聞元社員の反日売国発言に思う
カテゴリー │書籍・雑誌
本棚を整理していたら、昔読んだ本が見つかりました。かつて朝日新聞社の社員だった人物のものです。
……と言うのはちょっと度が過ぎた冗談。さすがに「滅びるね」はキツイと思いますが、何となくモヤモヤ考えていたことをうまく代弁していました。
というのは、最近、日本礼賛の本や映画などをいくつか目にしたからです。といっても正直読んだりしてません。タイトルだけでお腹いっぱいですし、似たような本がたくさん並んでいるので、いちいち読んでいたらたまらないのです。映画だって、予告編を見ただけで「うわぁ、またか」となりそうです。
テレビはそうもいきません。いきなり目に飛び込んできます。ある朝の番組の名物コーナーで、若い女性タレントが世界中のいろいろな地を旅するというものがありました。楽しみにしていたのは私だけではなかったようで、2年間の軌跡がDVD2巻にまとめられており、販売ランキングにも上位に顔を出していました。
大団円を迎えた後に始まったのは、同じ海外リポートでも、日本のイノベーションで世界中の人を便利にしようといった企画でした。ロケ地には途上国や震災被災地が選ばれていました。「上から目線」あふれる画面に朝から吐きそうになり、チャンネルを変えました。戦災孤児にチョコレートを施すアメリカ兵にでもなったつもりでしょうか。
先の朝日の国賊社員は、明治期の文明開化は労力の節約と趣味の消費の二面を生み、しかし生活は昔に比べて楽にはならず、かえって苦しくもなっていると指摘します。さらに、日本の文明は外圧によってもたらされた「皮相上滑り」(上っ面だけ)のものだと喝破しています。
なんとひどい暴言でしょう。祖国の近代化に心血を注がれた祖先への侮辱であり、名誉をひどく汚す発言です。この人物は各地を講演でまわり、このような自虐史観を吹聴していたのです。こんなひどい社員を雇う朝日新聞は即刻廃刊するべきです!
しかしながら、私はこの朝日社員の「自虐」発言を論破できず、それどころか、海外での日本人の活躍に便乗する本や映画や、途上国にテクノロジーを押し付け思い上がっているテレビを毛嫌いします。
日本人の海外での活躍は素晴らしいものです。スポーツ選手なら今年は羽生結弦や錦織圭が称賛を浴びました。サッカーW杯は残念でしたが、本田、香川ら日本人勢の大活躍をニュースで知るとうれしくなります。芸能ならば、単身日本を飛び出したアイドルが現地で活躍して人気投票で3位になるということもありました。先ほどの若い女性リポーターも、海外で活躍したひとりです。
でも、それは、その選手や芸能人が活躍したのであって、日本人すべてが活躍したのではありません。朝日の社員が書いたように、美しい富士山はもともとあっただけであって、日本人が富士山を作ったわけではないのです。
さて、我が国をこよなく愛する国士諸君よ。
美しい国、日本を貶めている反日・売国奴の朝日新聞社員が誰か知りたくないですか?
この人は夏目金之助。筆名は漱石といいます。東京帝国大学などで教鞭を取った後に朝日新聞社に入社し、職業作家となりました。
冒頭の文は1908年に朝日新聞紙上で連載された『三四郎』で、広田先生が主人公の小川三四郎に語る言葉です。講演は教科書にも載っている有名な『現代日本の開化』です。
え?極左活動家じゃないの?
「――あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれよりほかに自慢するものが何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」
「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、なんたる国辱発言!仮にも日本を代表するマスコミである朝日新聞が、このような自虐記事を掲載するなど、断じて許されません。ぜひネットに拡散し、抗議するべきです。これを書いた人は大学教授も務めていたので、雇用した大学にも厳重な抗議活動を行い、天誅を下しましょう!
「滅びるね」と言った。
……と言うのはちょっと度が過ぎた冗談。さすがに「滅びるね」はキツイと思いますが、何となくモヤモヤ考えていたことをうまく代弁していました。
というのは、最近、日本礼賛の本や映画などをいくつか目にしたからです。といっても正直読んだりしてません。タイトルだけでお腹いっぱいですし、似たような本がたくさん並んでいるので、いちいち読んでいたらたまらないのです。映画だって、予告編を見ただけで「うわぁ、またか」となりそうです。
テレビはそうもいきません。いきなり目に飛び込んできます。ある朝の番組の名物コーナーで、若い女性タレントが世界中のいろいろな地を旅するというものがありました。楽しみにしていたのは私だけではなかったようで、2年間の軌跡がDVD2巻にまとめられており、販売ランキングにも上位に顔を出していました。
大団円を迎えた後に始まったのは、同じ海外リポートでも、日本のイノベーションで世界中の人を便利にしようといった企画でした。ロケ地には途上国や震災被災地が選ばれていました。「上から目線」あふれる画面に朝から吐きそうになり、チャンネルを変えました。戦災孤児にチョコレートを施すアメリカ兵にでもなったつもりでしょうか。
先の朝日の国賊社員は、明治期の文明開化は労力の節約と趣味の消費の二面を生み、しかし生活は昔に比べて楽にはならず、かえって苦しくもなっていると指摘します。さらに、日本の文明は外圧によってもたらされた「皮相上滑り」(上っ面だけ)のものだと喝破しています。
なんとひどい暴言でしょう。祖国の近代化に心血を注がれた祖先への侮辱であり、名誉をひどく汚す発言です。この人物は各地を講演でまわり、このような自虐史観を吹聴していたのです。こんなひどい社員を雇う朝日新聞は即刻廃刊するべきです!
しかしながら、私はこの朝日社員の「自虐」発言を論破できず、それどころか、海外での日本人の活躍に便乗する本や映画や、途上国にテクノロジーを押し付け思い上がっているテレビを毛嫌いします。
日本人の海外での活躍は素晴らしいものです。スポーツ選手なら今年は羽生結弦や錦織圭が称賛を浴びました。サッカーW杯は残念でしたが、本田、香川ら日本人勢の大活躍をニュースで知るとうれしくなります。芸能ならば、単身日本を飛び出したアイドルが現地で活躍して人気投票で3位になるということもありました。先ほどの若い女性リポーターも、海外で活躍したひとりです。
でも、それは、その選手や芸能人が活躍したのであって、日本人すべてが活躍したのではありません。朝日の社員が書いたように、美しい富士山はもともとあっただけであって、日本人が富士山を作ったわけではないのです。
さて、我が国をこよなく愛する国士諸君よ。
美しい国、日本を貶めている反日・売国奴の朝日新聞社員が誰か知りたくないですか?
この人は夏目金之助。筆名は漱石といいます。東京帝国大学などで教鞭を取った後に朝日新聞社に入社し、職業作家となりました。
冒頭の文は1908年に朝日新聞紙上で連載された『三四郎』で、広田先生が主人公の小川三四郎に語る言葉です。講演は教科書にも載っている有名な『現代日本の開化』です。
え?極左活動家じゃないの?
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」(『三四郎』)
2014年11月11日11:58
「よき友」とは?
カテゴリー │インターネット
吉田兼好(兼好法師)の『徒然草』に、「よき友」として、3つのタイプが挙げられています。
・「物くるゝ友」(物をくれる友)
・「医師(くすし)」
・「智恵ある友」(知恵のある友)〈第百十七段〉
なんて即物的なんだ、と突っ込みたくなる文です。現代のフェイスブックのユーザーでも、もう少し自分を飾り立ててキャラ立ちさせます。
なお、「友とするに悪(わろ)き者」もあります。
・「高く、やんごとなき人」(高貴な身分の人)
・「若き人」
・「病なく、身強き人」(心身剛健)
・「酒を好む人」(意訳としては酒癖が悪い人、大トラといったところか)
・「たけく、勇める兵(つはもの)」(血の気が多く喧嘩っ早い?)
・「虚言(そらごと)する人」(嘘つき、話が大きい?)
・「欲深き人」〈同〉
これが日本三大随筆のひとつとは信じられない俗っぽい話です。「兼好法師」というくらいですから、出家して坊さんのはずなのに、俗世間にまみれまくっています。もしこんなことネットに書こうものなら、炎上必至です。
なんでこんなことを思ったかというと、いまの私にとっての「よき友」とはなにか?を考えたのです。それは、
「コンピュータに詳しい友」
です。
パソコンのソフトがアップデートできずに、リカバリ(買ったときの状態に戻す)をやったものの、ネットにつながらず、右往左往してプロバイダの人を困らせ、つながったらエクスプローラが使い物になりませんでした。パソコンそのものが古く、アップデートできません。
ネットに詳しい人ならば簡単に治るのでしょうが、私には手が出ません。昨年、大規模な修理に出したので、もう買い替え時かと思って新聞のチラシや辛うじて見られるネットの比較サイトなどで検討しているのですが……。
デジタル音痴の私にはさっぱりなのです。
「ノートパソコンでは外国製が安いけど、どうしてこんな値段なのだろう、安かろう悪かろうではないのか」とか。
「ネットとメールと年賀状や地図の印刷くらいしかしないのだから、タブレットでいいのでは」とか。
「今買うと付いてくるWindows8は評判が悪くて、来年のWin10発売まで待つべきなのか」とか(たまたま読んだ経済雑誌に書いてあった知識)。
もう、何が何だか。
頭がパンクしそうです。
今はなぜかインストールできた「Google Chrome」というもので書いています。こんなの使うの初めてですよ。大丈夫なのか、このソフト。
そんなわけで、私はいま大変です。何が大変なのかがわからないくらい大変です。
以上、近況報告でした。パソコンなんかもーやだ!
・「物くるゝ友」(物をくれる友)
・「医師(くすし)」
・「智恵ある友」(知恵のある友)〈第百十七段〉
なんて即物的なんだ、と突っ込みたくなる文です。現代のフェイスブックのユーザーでも、もう少し自分を飾り立ててキャラ立ちさせます。
なお、「友とするに悪(わろ)き者」もあります。
・「高く、やんごとなき人」(高貴な身分の人)
・「若き人」
・「病なく、身強き人」(心身剛健)
・「酒を好む人」(意訳としては酒癖が悪い人、大トラといったところか)
・「たけく、勇める兵(つはもの)」(血の気が多く喧嘩っ早い?)
・「虚言(そらごと)する人」(嘘つき、話が大きい?)
・「欲深き人」〈同〉
これが日本三大随筆のひとつとは信じられない俗っぽい話です。「兼好法師」というくらいですから、出家して坊さんのはずなのに、俗世間にまみれまくっています。もしこんなことネットに書こうものなら、炎上必至です。
なんでこんなことを思ったかというと、いまの私にとっての「よき友」とはなにか?を考えたのです。それは、
「コンピュータに詳しい友」
です。
パソコンのソフトがアップデートできずに、リカバリ(買ったときの状態に戻す)をやったものの、ネットにつながらず、右往左往してプロバイダの人を困らせ、つながったらエクスプローラが使い物になりませんでした。パソコンそのものが古く、アップデートできません。
ネットに詳しい人ならば簡単に治るのでしょうが、私には手が出ません。昨年、大規模な修理に出したので、もう買い替え時かと思って新聞のチラシや辛うじて見られるネットの比較サイトなどで検討しているのですが……。
デジタル音痴の私にはさっぱりなのです。
「ノートパソコンでは外国製が安いけど、どうしてこんな値段なのだろう、安かろう悪かろうではないのか」とか。
「ネットとメールと年賀状や地図の印刷くらいしかしないのだから、タブレットでいいのでは」とか。
「今買うと付いてくるWindows8は評判が悪くて、来年のWin10発売まで待つべきなのか」とか(たまたま読んだ経済雑誌に書いてあった知識)。
もう、何が何だか。
頭がパンクしそうです。
今はなぜかインストールできた「Google Chrome」というもので書いています。こんなの使うの初めてですよ。大丈夫なのか、このソフト。
そんなわけで、私はいま大変です。何が大変なのかがわからないくらい大変です。
以上、近況報告でした。パソコンなんかもーやだ!
2014年11月01日09:58
中之条エレジー
カテゴリー │政治
ひなびた温泉郷の玄関口は、駅員以外にひと気はなかった。それでも体は硬直していた。やましいことはないが、なにしろ場所が場所だ。警察やヤクザが見張っているんじゃないかと不安しかなかった。目指す家はどこにもない。豪邸だろうからすぐにわかると高をくくっていたが、それらしき建物はない。意を決して、歩いてきた老人に話しかけた。
「あのう、小渕さんのご実家はどちらでしょう?」
老人は丁寧に教えてくれ、家族がいるから話してみたらどうかと気さくに言ってくれた。スーパーの店員が野菜売り場を教えてくれるような軽い口ぶりに、あっ気に取られ、心配になった。営業マンの飛び込みセールスなんかじゃない。現職総理大臣の家に訪問するのだ。
芸能人の追っかけをするような感覚だった。広くはあるが、御殿とは程遠い、普通の庶民の家に、ポリスボックスもなくSPも不在の、呑気な田舎の風景がそこにあった。生け垣の剪定をしていた女性に、極度の緊張でどもりがちに話しかけると、最初は怪しげな視線だったが、すぐに相好崩して歓待してくださった。
小渕恵三元首相の実兄で群馬県中之条町の小渕光平町長の妻(元首相の義理の姉)の女性は、非礼な押し掛け客の私に、いかに小渕氏が立派かを語ってくれた。その口調は、英雄を称えるものではなく、出来のいい親戚を褒めるものだった。地元に帰ると、近所の人たちに「恵ちゃん、恵ちゃん」と呼ばれることも教えてくれた。
「あなたも立派な政治家になってください」との言葉に苦笑いしながら辞去したときには「人柄の小渕」が育まれた土壌を十分に体感し、すっかり「恵ちゃん」と中之条町のファンになっていた。20代前半、2度目の大学生のときだった。
小渕元首相は自らを「ビルの谷間のラーメン屋」と自嘲してた。福田赳夫・中曽根康弘の総理大臣経験者らと同じ選挙区で苦戦を強いられたことからだ。だが、ラーメンは大衆食として絶大な人気だ。店構えは小さくとも、庶民的な値段で美味しいラーメンを出す贔屓の店が、誰にだって1軒か2件はある。「孤独のグルメ」の松重豊さんがテーブル席でむしゃぶりついていそうな店が、学生街やオフィス街には必ずある。
小渕氏のイメージは、そんなラーメン屋だった。誰彼かまわず電話する性格や、野菜のカブをテレビカメラに向かって掲げて「株上がれ」とおどける性格は、気さくなラーメン屋の店主そのものだった。そんな主人のいる店は、腹が減ってなくとも毎日通いたくなるものだ。
ところで、ラーメンの地位はここ数十年で驚くほど上がった。ガイドブックやスマホの口コミサイトを手に行列ができ、ラーメン王やラーメン評論家がテレビに登場するようになった。東京の有名店では食べるための「作法」まであるようだ。
主人の姿もまた変わった。Tシャツにバンダナ姿、腕組みをして、しゃべりながら食べると怒られる……。こんな姿がステレオタイプとしてネットの「ネタ」にもなっている。社会的地位向上は喜ばしいことだし、店主たちの努力には頭が下がるが、庶民にとってはどうにも敷居が高くなって入りにくい店も多い。
「売り家と唐様で書く三代目」と古川柳にあるが、今さかんに報道されている「三代目」小渕優子前経済産業大臣は、先代の苦労を知らずに育ったようだ。
選挙制度が変わって商売敵ががなくなった「ビルの谷間のラーメン屋」は、店主が営業努力をせずとも客が並ぶ大繁盛店になった。テレビに映る中之条町は、かつて私が訪れた同じ町とはまるで違っていた。マスコミによるオーバーな書き方を補正しても、ラーメン屋でなく高級料亭か銀座の寿司屋だ。
小渕恵三氏は職務中に倒れ、兄の光平氏も世を去った。不審者そのものの私をもてなしてくださった義姉も、かつてとは違っているだろう。天を見つめ宙に右手を差し出す小渕元首相の銅像は、「凡人」と批判されながらも国民目線で政治を行い「恵ちゃん」「平成おじさん」「ブッチホン」と親しまれた姿から程遠い。
前店主を祭り上げ神格化するラーメン店に興味はない。中之条に足を運ぶことももうないだろう。
「あのう、小渕さんのご実家はどちらでしょう?」
老人は丁寧に教えてくれ、家族がいるから話してみたらどうかと気さくに言ってくれた。スーパーの店員が野菜売り場を教えてくれるような軽い口ぶりに、あっ気に取られ、心配になった。営業マンの飛び込みセールスなんかじゃない。現職総理大臣の家に訪問するのだ。
芸能人の追っかけをするような感覚だった。広くはあるが、御殿とは程遠い、普通の庶民の家に、ポリスボックスもなくSPも不在の、呑気な田舎の風景がそこにあった。生け垣の剪定をしていた女性に、極度の緊張でどもりがちに話しかけると、最初は怪しげな視線だったが、すぐに相好崩して歓待してくださった。
小渕恵三元首相の実兄で群馬県中之条町の小渕光平町長の妻(元首相の義理の姉)の女性は、非礼な押し掛け客の私に、いかに小渕氏が立派かを語ってくれた。その口調は、英雄を称えるものではなく、出来のいい親戚を褒めるものだった。地元に帰ると、近所の人たちに「恵ちゃん、恵ちゃん」と呼ばれることも教えてくれた。
「あなたも立派な政治家になってください」との言葉に苦笑いしながら辞去したときには「人柄の小渕」が育まれた土壌を十分に体感し、すっかり「恵ちゃん」と中之条町のファンになっていた。20代前半、2度目の大学生のときだった。
小渕元首相は自らを「ビルの谷間のラーメン屋」と自嘲してた。福田赳夫・中曽根康弘の総理大臣経験者らと同じ選挙区で苦戦を強いられたことからだ。だが、ラーメンは大衆食として絶大な人気だ。店構えは小さくとも、庶民的な値段で美味しいラーメンを出す贔屓の店が、誰にだって1軒か2件はある。「孤独のグルメ」の松重豊さんがテーブル席でむしゃぶりついていそうな店が、学生街やオフィス街には必ずある。
小渕氏のイメージは、そんなラーメン屋だった。誰彼かまわず電話する性格や、野菜のカブをテレビカメラに向かって掲げて「株上がれ」とおどける性格は、気さくなラーメン屋の店主そのものだった。そんな主人のいる店は、腹が減ってなくとも毎日通いたくなるものだ。
ところで、ラーメンの地位はここ数十年で驚くほど上がった。ガイドブックやスマホの口コミサイトを手に行列ができ、ラーメン王やラーメン評論家がテレビに登場するようになった。東京の有名店では食べるための「作法」まであるようだ。
主人の姿もまた変わった。Tシャツにバンダナ姿、腕組みをして、しゃべりながら食べると怒られる……。こんな姿がステレオタイプとしてネットの「ネタ」にもなっている。社会的地位向上は喜ばしいことだし、店主たちの努力には頭が下がるが、庶民にとってはどうにも敷居が高くなって入りにくい店も多い。
「売り家と唐様で書く三代目」と古川柳にあるが、今さかんに報道されている「三代目」小渕優子前経済産業大臣は、先代の苦労を知らずに育ったようだ。
選挙制度が変わって商売敵ががなくなった「ビルの谷間のラーメン屋」は、店主が営業努力をせずとも客が並ぶ大繁盛店になった。テレビに映る中之条町は、かつて私が訪れた同じ町とはまるで違っていた。マスコミによるオーバーな書き方を補正しても、ラーメン屋でなく高級料亭か銀座の寿司屋だ。
小渕恵三氏は職務中に倒れ、兄の光平氏も世を去った。不審者そのものの私をもてなしてくださった義姉も、かつてとは違っているだろう。天を見つめ宙に右手を差し出す小渕元首相の銅像は、「凡人」と批判されながらも国民目線で政治を行い「恵ちゃん」「平成おじさん」「ブッチホン」と親しまれた姿から程遠い。
前店主を祭り上げ神格化するラーメン店に興味はない。中之条に足を運ぶことももうないだろう。