「薄い本」から透ける現実

カテゴリー │書籍・雑誌

 「薄い本」といって、「岩波ブックレット」などを連想する人は今や少数派のようです。
 盆と暮れの時期に開催される「オタクの祭典」コミックマーケットで、アニメマニアが販売する同人誌のことを、やや自嘲的に「薄い本」と呼ぶそうです。著作権無視のパロディやエロ、やおい・ボーイズラブ(早い話が男性同士の耽美的な同性愛)などもあって私にはほとんど縁のない世界なのですが、なぜかその「薄い本」を入手してしまいました。

 なぜかというと、アニメの声優の話だからです。
 声優はサブカルチャーに関心がある人に人気の職業ですが、就業するのが非常に難しい仕事です。無限に可能性がある若い人たちが、華やかなイメージだけで進路を決め、金儲けしか考えてない悪質な専門学校(果ては大学まで)に引っ掛かり、多額の金と貴重な青春の日々を浪費するのは見るに堪えないことです。
 ところが学校のキャリア教育ではそんなことは教わりません。そもそも教師がわかっていない場合が多くありますから。
 声優が書いたハウツー本もいくつもありますが、「声優は夢を与える素敵な仕事です」など綺麗事しか書いてなかったり、技術論の本だったりします。
 そうじゃなく、本当はこんなシビアなことなんだよ、ということもきちんと知らなくてはならないだろうと、いくつか厳しいことを書いてきました(ココとかココとか)。

 今回紹介する「薄い本」は、声優になるためではなく、めでたく声優になった後の話です。
 ポータルサイトのエキサイトでブックレビューが掲載されており、それを読んで通信販売で購入しました(同人誌がネット通販で買えるなんて、初めて知りました)。
 あさのますみ原作・畑健二郎作画『それが声優!』です。



 

東京オリンピックを作ったのは誰だ?

カテゴリー │映画・演劇・その他

 「金閣寺を作った人は誰でしょう?」
 「うーん、足利義満」
 「ブー。大工さんでしたー」

 という、他愛もないなぞなぞがあるのですが、では東京オリンピックを作ったのは誰でしょう?

 その東京オリンピックが開催された1964年を舞台にした映画「ALWAYS 三丁目の夕日’64」を観てきました。映画シリーズそのものは昨日テレビでやっていましたのでご存じの方も多いでしょう。日本の高度成長期の東京下町を舞台にした、VFXを駆使した映画です。
 私はこの映画シリーズは、良いけど嫌いという複雑な感想を持っていますが(理由はコチラ)、今回もまた似たような感想を持ちました。

 東京五輪に湧く東京の下町は、地味に発展を遂げています。主役の堤真一が経営する町工場も、外壁などがきれいになっており、なかなか細かな描写があります。
 前々作、前作の「アイコン」は東京タワーでした。今作は東京オリンピックというイベントそのものです。
 が、当然、施設がなくては競技はできません。
 丹下健三氏の設計による代々木競技場や、武道だけでなく格闘技や音楽の殿堂ともなっている日本武道館などが建設されました。
 また、大規模輸送機能も必要でした。オリンピックに間に合うように急ピッチで作られた東海道新幹線が開通しました。陸路も、首都高速道路が着々と建設されていました(東名高速開通はもう少し後)。
 「ここは一面焼け野原だった。それがいまやオリンピックだ」と、映画の中で堤真一が感慨深げに叫ぶシーンがあります。

 さて、冒頭のなぞなぞです。オリンピック、つまり、それのハード(入れ物)を実際に作ったのは誰か?
 (以下、ネタばれあり)


 

17年

カテゴリー │社会

偉そうなことをさんざん書いていながら、今日の朝刊を見るまですっかり忘れてた。深く深く反省。阪神・淡路大震災から17年。写真は今朝の5時46分の風景です。どこかって?職場です。夜勤中です。

(追記)再送。写真添付忘れてました。



 

売春は人権侵害か文化か?

カテゴリー │書籍・雑誌

 今年になってまだ2本目のエントリなのに、なんつータイトルなんでしょう。

 性風俗を含め、私は買春はしたことがありません。エロ本やAVも広く性の商品化だとするのならば、すいませんというしかありませんが、多くの人が連想する売買春は、店でも街頭でもネットでもまったくありません。
 だからといって、性を売買することを私は否定しません。売りたい人がいて、買いたい人がいるのならば、それは経済活動のひとつとして認められてもいいと考えています。
 もちろん、そこには厳密なルールと公的な監視が必要です。たとえば、自己決定をするだけの知識と意思が身に付いていない児童売春は絶対に認められませんし、暴力団など反社会的団体による管理売春も根絶されるべきです。
 以上は一例ですが、そのような、売り手と買い手の人権がしっかりと保護される条件下ならば、不動産や車などを売り買いするのと同じように、体を売っても買っても、「それのどこがいけないの?」という考えです。

 一方で、現状を見てみると、特に女性の管理売春は劣悪な待遇にあり、搾取の構造に組み込まれています。労基署などが介入できないアンタッチャブルな世界ですので、労働者ともいえない売春婦や風俗嬢が体も金も心もピンハネされています。
 少し前にキャバクラ嬢が労組を結成するとの報道がありましたが、実際のところは氷山の一角です。ましてや、キャバクラならばまだ専門誌があるくらいの人気職種ですが、そうではない売春婦や風俗業界では女性が(男性も、でしょうが)、声を上げようにもできないことは容易に想像できます。

 さて、タイトルの唐突な問い「売春は人権侵害か文化か?」ですが、私の答えはもう出ています。
 「人権侵害であり文化でもある」というものです。
 そんなことを考えたのも、昨年話題になった渾身のノンフィクションを年末年始に読んだからです。
 ご存じの方も多いんじゃないんでしょうか。井上理津子『さいごの色街 飛田』(筑摩書房)です。



 

「glee」に見る日米教育現場の問題

カテゴリー │いろいろ

 あけましておめでとうございます。
 今年はどんな正月でしたか?
 私は紅白や箱根駅伝をゆっくり観る寝正月のつもりでしたが、元日に職場から緊急招集がかかり、三が日ずっと仕事でした。
 何もやることがなく、職場に詰めていて、分厚い本まるまる一冊読了してしまいました。
 頭にきて年越しそばのつもりで買い溜めしてあった「赤いきつね」と「緑のたぬき」をドカ食いしてしまいました。
 ああ、また太った。
 でも、たまにはいいよね、こんな正月。

 実は寝正月のつもりでTSUTAYAで借りてきたDVDがありまして。
 アメリカの人気テレビドラマシリーズ「glee」です。
 「glee」とはグリークラブ、すなわち合唱部のことですが、ポップな曲とダンスが挿入されており、ミュージカルのような楽しいドラマです。
 映画「天使にラブソング2」とか、辛口の「けいおん!」のような味わいがあります。

 あれ?ハッピーなドラマじゃないのかって?
 鋭い!このドラマ、決してバラ色の物語ではないのです。

 このドラマには希望がありません。
 オハイオ州の田舎町ライマの、これといって特色のない学校が舞台です。アメリカの地理や政治に詳しい人ならば、どんなところかは地図を見ればわかるでしょう
 生徒は名門大学に進学するわけでもありません。主人公はスペイン語の教師ですが、高校とは思えないほどレベルが低いです(私はかつて大学でスペイン語を学んでいたから程度がわかります)。就職先も、あまりいいところはありません。
 つまり、夢も未来もなく、どん詰まりの学校生活で、生徒たちも行く末をあきらめているのです。
 ノンフィクション作家の林壮一氏の『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)にある光景そのままです。
 生徒の楽しみは、陰険ないじめぐらいしかありません。

 ドラマを観た人、特に若い世代の人は、おそらくデジャブ(既視感)を覚えるのではないのでしょうか?あらゆるところで、日本の教育の現状とそっくりなのです。
 クラブの花形はアメフト部とチアリーダー部で、グリークラブは、いわゆる「イケてない」生徒の集まりです。
 グリーに関わるだけで、「スクールカースト」の最下層に位置させられ、ジュースをぶっかけられるなどいやがらせをされます。
 「イケている」はずのアメフトやチアの生徒も、勝利至上主義の管理教育の中で、いかに高い地位を維持するか(日本でいえば「キャラ化」)に腐心しています。したがって、仲間はずれにならないように、他の生徒と同調していじめを行います。
 そのスケープゴートは、マイノリティ、すなわちカラード(有色人種)や障害者、同性愛者、ユダヤ人、高校生妊婦の集まりである、グリーのメンバーとなります。

 私はまだ途中までしか観ていません。ですからもしかしたら、劇的な変化があるのかもしれません。
 ただ、ネットでファンが感想を書いていたような、仲間たちとの感動の物語となる兆しはまったくありません。
 私はこのドラマを観て真っ先に連想したことは、コロンバイン高校で起こった銃乱射事件です。
 日本のニュースとマイケル・ムーア監督の映画でしか知りませんでしたが、Wikipediaで見ただけでも、犯人の二人はたびたびいじめに遭っていたとあります。
 ただ特定のクラブに入ったというだけでたびたびジュースをぶっかけられるような環境だったら、私でも無差別殺戮をするかもしれません。

 ドラマとしては、最初は陰鬱な気分でしたが、お気楽なところ、楽しいところもいくつもあります。悲劇と喜劇は紙一重だなー、との感想を受けました。
 これから話が進むにつれ、暗い部分はなくなり、楽しくハッピーなドラマになるのかもしれません。
 今日も続編を借りてきました。とりあえず、続きを観てみようかと思います。そのためには正月早々に職場に呼び出す(しかも新年会に行くから仕事変わってくれという、それこそ銃を乱射したくなるような理由で)なんて愚かなことをなくすことが先決だと思います。


 なお、4月からはNHK・Eテレ(教育テレビ)で放送されます。
 個人的には吹き替えではなく字幕版をおすすめします。声優ファンには悪いけど、声がまるで配役と合ってないし、歌のシーンでアメリカ版の俳優の声にいきなり変わるなど、どうにも気に障って物語に入り込めません。