アイドル本三種盛り

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 お久しぶりです。今年初、そして令和初のブログです。堅い内容ばかりが続いたので、今回は軽めに、アイドルの話題です。最近、アイドル・元アイドルによる本が話題になっています。興味を持ちましたら一読してください。

矢方美紀「きっと大丈夫。~私の乳がんダイヤリー~」(双葉社)

アイドル本三種盛り 元SKE48のメンバーが25歳の若さで乳がんになり、左乳房を全摘出したニュースは大きな衝撃を与えました。明るいムードメーカーで、物まねやギターの弾き語りなどが得意で、メンバーからも人望が厚い彼女を襲った病魔との闘いと、矢方さんの決意は、多くの人、特に同じ病気で悩んでいたAYA世代(※)の患者に共感をもって受け入れられました。

(※AYA世代……”Adolescent and Young Adult"の頭文字を取ったもので、思春期から若い成人までのがん患者のこと。勉強や就業、恋愛・結婚・出産など若年世代独特の悩みがあり、近年注目されている。詳しくは著者も出演したこちらの動画を参照

 NHK名古屋放送局の番組「#乳がんダイヤリー 矢方美紀」を元にしたこの本は、彼女自身の語りや自撮り映像を再編集して加筆したものです。また、NHKスタッフやNPO法人の監修で、病気のことがわかりやすく説明されています。保険や出産など、特に女性の患者が抱く不安についても述べられています。独りよがりの治療(時にそれは命を奪う)に陥ることなく、安心してお薦めできます。

 筆者らしい個所は「アピアランスサポート」についてです。闘病中は手術や抗がん剤の影響で、外見が大きく変化します。頭髪が抜けたり、爪の色が黒くなったりと。人前に出る機会のある女性にとっては切実な問題です。人から見られる仕事である著者自身が直面した悩みや、専門のNPO法人の協力を得て、ウィッグやネイルを体験するなど、若い女性タレントの闘病記ならではで、同世代の患者には大いに参考になるでしょう。

 SKE48のファンにはおなじみですが、著者はアイドル時代から、カジュアル衣料や古着などをうまく着回すなどセンスが良く、現在でもファッションショップでアルバイトをしています。抗がん剤治療中にSNSに投稿された写真も、ウィッグにリボンや髪飾りを付けたりと、ひと工夫されていました。写真がもっと多ければ、コーディネートの見本となって、同じ悩みを持つ患者に役立ったでしょう。今後の著者のSNSやNHKの番組に期待です。

 やや贅沢を言えば、話上手な著者は、劇場公演のトークやラジオで本領を発揮します。この本の発売と前後して放送された名古屋のラジオ番組でも、深刻な話をユーモアを交えて明るく伝えていました。その巧みな話術が活字に生かされれば、なおいい本になったでしょう。次作があるのならば、もっと文筆にも力を入れてほしいと願います。アイドル界随一の芸達者だった彼女ならばできるでしょう(辛い闘病中なのに、厳しいこと言ってごめんね)。

 週刊プレイボーイ増刊号「指原莉乃×週刊プレイボーイ2019」(集英社)

アイドル本三種盛り かわいいアイドルや人気のアイドルは議論が尽きませんが、「最強のアイドル」はこの人しかいません。スキャンダルを逆手にとってのし上がり、「選抜総選挙」やセンター曲の実績で週刊誌やアンチファンを黙らせ、後輩グループの育成にも抜群の才能を発揮し、最近はコスメなどに凝って、ぐっと美貌が増している、元HKT48指原莉乃の卒業記念号です。

 一言でいえば、指原莉乃のアイドル卒業文集です。本人のインタビューや対談では、思い出話など軽いものから、ビジネス目線でアイドルを語るなど多彩な内容です。HKT48や「=LOVE」「≒ME」などアイドルグループのインタビュー、ゆかりのあった48グループのメンバーやスタッフらからのメッセージなどは、同級生や後輩からの寄せ書きでしょう。もちろん、卒業写真でもあるグラビアもあります。

 担任教師からの贈る言葉に当たるのは、後藤輝基(フットボールアワー)のインタビューでしょう。兄貴分として長年番組で共演する後藤は、彼女がなぜテレビ業界で要求されるのかを、笑いを交えながら、彼女の長所や特長を例示しつつ的確に説明し、彼女をリスペクトします。論理的な語り口は、生き馬の目を抜くお笑い業界で長年人気を保つだけのことはある、読みごたえがあるものです。

 白眉は「週プレ」で7年間連載されていた4コマ漫画のダイジェストです。国民的アイドルグループへと成長したAKB48でも、異形のヘタレキャラだった頃から、徐々に注目され、総選挙で躍進、そして博多へ移籍、そこから大躍進を遂げるまでの歴史が、31ページに凝縮されています。

 可愛らしいけど自尊感情が低そうな幼いキャラクター「さしこ」が、段々と風格を帯び、自信と貫禄が出て、目に強い光を帯びてきます。最後には綺麗なお姉さんへと変貌していく姿は、いじめられていたヒナがやがて美しい白鳥となって飛び立っていくアンデルセンの童話「みにくいアヒルの子」のようです。

 上手いとはいえない漫画ですが、作者の愛があふれています。裏表紙には指原を囲んで漫画のキャラクターが勢ぞろいするイラストがあります。推しメンがどこにいるか探しながら読んでみるのも一興でしょう。

 大木亜希子「アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア」(宝島社)

アイドル本三種盛り アイドルは、その成長をファンが応援し、共有し、高めあうものです。それは女性アイドルでも男性アイドルでも変わりません。ミュージカル「マイ・フェア・レディ」のような世界ですが、その後のことはあまり語られません。

 著者は元SDN48のメンバー。「一斉卒業」(解散)の後、ネット企業に入社し、ウェブライターとして活動後、独立し、フリーライターとなりました。第二の人生を歩みながらも、著者は常に「元アイドル」という肩書きに囚われていました。国民的アイドルグループの姉妹版で、紅白歌合戦に出場したほどのキャリアです。前職にこだわりがあるのは仕方がないかもしれません。

 その「元アイドル」の呪縛から逃れ、アイドル時代の「人生の答え合わせ」や「逆襲」(ともに著者の言葉)のために、元48グループだったメンバーに、セカンドキャリアを尋ねていきます。

 クリエイター。ラジオ局社員。アパレル販売員。保育士。広告代理店社員。声優。振付師。バーテンダー。本書に登場する元アイドルたちの現職です。著者は伝手を頼って彼女たちに接触し、インタビューします。華やかなステージとは違う業界で奮闘する彼女たちの姿は、純粋に、かつてのファンにとってもうれしいものでしょう。

 「アイドル業に未練はないか」著者は元アイドルたちに質問します。アイドルの経験が今の仕事に生かされているかとも聞きます。それは、取材対象者ではなく、著者本人が、自分に対して聞きたかった問いです。アイドルに向かって質問するようで、実は自問自答を繰り返しながら、著者は、取材と執筆を通じて、答えを出します。

 この本が興味深いのは、アイドル、特にAKB48グループの大きな核である、メンバーの成長過程の共有を体現していることです。著者が憧れて足を踏み入れ、不完全燃焼のまま卒業して、その後も絡めとられていたアイドルという存在を、インタビューを重ねることで受容し、昇華させ、呪縛から解き放たれていく、著者自身のドキュメンタリーとなっています。

 正直なところ、ノンフィクションとしては荒い面が目立ちます。同書に出てくる人たちは、元アイドルの過去を受け入れた人ばかりです。著者がインタビューで述べているように、「元アイドル」という過去を隠しているため取材を断った人もいます。取材対象者を選定する時点で、すでにバイアスがかかっていると言えましょう。また、本人のインタビューだけでなく、周辺取材があれば、もっと内容も膨らんだでしょう。

 でも、不完全だった存在が洗練されていく姿を応援するのもアイドルファンの楽しみです。著者のさらなる成長物語を楽しみに、次作に期待しましょう。



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