ダメダメ会長物語

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 高校時代、生徒会長でした、なんて書いても尊敬されることなんてまったくありませんでした。
 受験に影響する内申点に結び付く中学校ならばともかく、高校の会長なんて、一部の数寄者以外は誰もが敬遠する役職です。一応、佐鳴予備校や秀英予備校で合格者数を競うような学校だったんですけどね、ウチは。おまけに役員任期は前後期制で、前期役員は文化祭など華やかな催しを行うので目立ちましたが、後期の最大の仕事は予算編成という地味なもので、誰もやりたがりません。仕方なく友達の友達の友達の……、とツテを頼って役員を集め、後期生徒会を発足させました。
 ところが、というか当然、未経験の私には荷が重く、催しでは運営がうまくいかず、全校生徒の前で恥をかき、教師からの信頼も地に落ちました。予算編成も各部活動や委員会からの勝手な申請をどう退けるかにヒイヒイ言って、しまいには「お前はやり方がわかってない」と教師から呆れながら説教されました。学校内だけではなく、周囲の女子高にまで「あそこの会長、変な人じゃない?」と噂されていたそうです。地域トップ校の生徒会長の威厳など微塵もありませんでした。

 「おまえの生徒会、支持率悪いぞ」
 そいつはわざわざ生徒会室の扉を開けて、嘲笑していきました。そんなことわかってます。だから、生徒と役員に楽しんでもらうために、参考書も開かず、頭を絞って日夜企画を考えていました。こっちは必死でした。「就任以来、笑顔が消えた」と言われたこともあります。なんとか現状を好転させようと、数学の課題を犠牲にしてウンウンうなっていました。
 それでも心ない中傷は聞こえてきます。

 「何が『贈る言葉』だ、おまえ。バカみたいだな」
 嘲弄とともに言われたのは、学校新聞から依頼された「生徒会長から 贈る言葉」とかいう原稿です。卒業する3年生への感謝とはなむけの寄稿でした。直接お世話になった先輩など数人しかいないのに、どうしてこんなもの書かなくちゃならないんだとブツブツ文句言いながら、ギャグの部分などはクラスメイトに助けてもらいながらなんとか書き上げたものです。「贈る言葉」なんていう陳腐な題は学校新聞編集部の生徒が付けたものです。

 「もうすぐKに代わるな。おまえ、ざまあみろ~」
 任期をあと少し残して次期会長がKくんに決まったときに言われました。Kくんはイケメンでかっこよく、スポーツも音楽もやっていて、まるで少女漫画に出てくるような絵に描いたような生徒会長でした。当然、期待度は高く、選挙では86%の信任を得ました。そのイケメンKくんと比べられて気の毒なひとだなとの憐みの感情が込められていました。

 そういえば、こいつに金を取られたこともあります。財布からお札を抜いていたときに何枚がスラれました。いじめなどではなく、ただのいたずらのつもりだったのでしょうが、こっちは大事な金です。「返せよ」と本気で突っかかると「マジになってるよこいつ」とヘラヘラと返してきました。冗談を本気にするなよバカとでも言わんばかりに。「何そんなに怒ってるだ、おまえー」と。遠州弁丸出しで言われると余計に腹が立ちます。

 こいつとは高校卒業後に接点はありませんでしたが、その後、失敗したり挫折したことが数多くありました。そのときには、いつもこいつの顔が思い浮かび、一生懸命に努力している人に決してあいつのような冷笑的な態度は取らないと、反面教師的に決めていました。「♪闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう~」という、中島みゆきの「ファイト!」が出る前のことでした。

 10年以上ぶりにこいつの顔を見たのは偶然付けっぱなしにしていたテレビのローカルニュースでした。ブラジルの格闘技に日本代表選手として出場するとのことでした。

 テレビの中で、こいつは警察官になっていました。柔道金メダリストの石井慧選手のような、一流柔道選手のような面構えの中にも、かつての強い者には媚び弱い者を嗤う卑屈な面相はうかがえました。
 インタビューよると、外国人犯罪を担当する部署に異動したとき、当地に多く住むブラジル人と接し興味を持ち、ブラジルの格闘技道場に入門したとの美談を伝えていました。
 人はほんの20年かそこらで変われるものではない、と、テレビのスイッチを切りました。

 思い出しましたが、職場にこいつをはじめ地域課の警察官が来たことがあります。勤務先の管轄の警察署の、最寄りの交番に勤務しています。犯罪が多発しているからと巡回に来てくれました。そいつは私のことに気付いていたでしょうか?わかったとしたら、きっとこう茶化すでしょう。
 「伝統ある高校の生徒会長までやっていたやつが、こんな仕事してるのか」と。
 私は自分の仕事を賤しく思ったことは一度もありませんが、はっきり言って、あまり人がやりたがらない仕事です。年中人手不足です。だからこそ一生懸命に仕事をやって、社会的地位を高めて、採用広告に履歴書が殺到するように、上司ともどもがんばっているのですが。

 私の職場には、毎日多くの人がお越しくださいます。スーツの胸の社名バッジだけで尊敬される人たちもいます。名刺一枚で誰にだって会える立場の人もいます。その会社の制服を着ているだけで縁談が殺到する人たちもいます。誰もが知っている芸能人やスポーツ選手も来られます。
 その中には、会社やメディアの威光から離れればクズ同然の人もいます。もちろん、無名で素晴らしい人も大勢います。

 偶然、私の昔の知人にお会いしたことも何度もあります。
 ある人は生徒会時代に提出を求めた重要書類の責任者の欄に「この中から適当に選んでおいて」とだけ言って白紙で提出したことがあります。仕方がないので全員の名前を書きましたが、当日、その中から誰も来ず、無責任の極みに怒り心頭に達しました。そいつはどこの学校に行ったのかは忘れましたが、たしかいい成績だったと思います(と悪いように書きましたが、実は彼とはそんなに仲は悪くなかった)。
 別の人は、私が生徒会で苦しみのさ中にあったことを知って、役員以外にただひとり年賀状をくれました。シンプルだけど心のこもった励ましの内容で、どん底にいた当時の私にとってはいまだに忘れることのできない手紙でした。その方とも職場でときどきお会いしましたが、最近はお見かけしません。異動されたのか、それとも寿退社されたのでしょうか。
 また、相手が自分のことを知っていてくれており、でもこちらが失念していたこともありました。失礼極まりないことで、誠に申し訳ございません。

 私は、たぶん同年代の平均的な人よりも多くの人に接してきました。これからも、会社や官庁や役職などの肩書にとらわれず、プレスリリース丸写しで裏取りもろくにしてないマスコミにも惑わされることなく、真に人を見る目を磨いていきたいと思います。
 そして、華やかな世界の舞台とは無縁でも、とりあえず足下の自分の仕事をちゃんとやろう、と、ニュースを見ながら改めて思ったのでした。
 それから、たぶんいないと思いますが、これを見ている中高生の方、会長でなくとも生徒会役員をやってみてはいかがでしょう。いいことなんてあまりありませんが、あなた次第で素晴らしい経験ができるかもしれませんよ。

(追記・7月15日)
 わかりにくいところや個人のプライバシーに関わることなど、一部加筆修正しました。筆を鈍らせるつもりはほんのかけらもありませんが、狭い地域ですからね。もし当該の人に迷惑がかかるといけませんから。


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この記事へのコメント
なんの仕事してるのー?
給料いいなら転職したいよー
Posted by 磐南 at 2009年07月15日 14:31
コメントありがとうございます。ウチは給料は激安ですが、仕事の内容いかんでかけがえのない素晴らしいものを手に入れることができる職場です。

今ごろのシーズンになると、グラウンドの土手で応援練習させられたことを思い出します。♪霊峰富士に朝日照りそいー、ってね。
Posted by 大橋輝久 at 2009年07月16日 13:25
こんにちは。投稿とは関係ありませんが、最近 不思議に思う事があります
番組の提供スポンサー企業では無い タレント社長?の商品を番組内に出して 出演者は おいしーと言いますが 番組提供のスポンサー企業は注意などクレームを言わないのでしょうか?
元タレントの知事はなぜ番組出演回数が多いのか?
番組内で夏に開催するテレビ会社のイベントを宣伝するのを見ますが その番組の提供スポンサーにテレビ会社の名前が出ませんよね?
素人には分からない カラクリだらけです。
Posted by ももい at 2009年07月17日 08:39
はじめましてで言うことではないのですが、内容と関係ないことはあまり書かないでくださいね。
でも、ちょっと考えてみましたので、読んでみてください。
7月17日の項目です。
http://eriteru.hamazo.tv/e1759398.html
私の名前のところをクリックするとジャンプします。
これからもしょうもないことばかり書いていきますが、おヒマでしたらまたお越しください。
Posted by 大橋輝久大橋輝久 at 2009年07月17日 16:41
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