「クイーン」とエンペラーとプリンスと

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 ゴールデンウィークという言葉は映画業界の言葉だったそうです。そのわりには映画をほとんど見られませんでした(「バベル」だけで、しかもどうにもピンとこなかった。前評判どおり菊池凛子の演技はよかったけど)。
 で、GW明けにさっそく観に行ったら朝にも関わらずほぼソールドアウト。そんなに「スパイダーマン」や「しんちゃん」や「コナン」がいいのか?

 というわけで、渋めに「クイーン」で決めました。ブレア政権誕生直後に起こったダイアナ元妃死亡事故をめぐっての女王エリザベス2世の心の揺れを描いた作品です。イギリスらしいというか、真面目な映画でした(これでも一応エンタテインメントの範疇には入るんでしょうが)。
 離婚によって王籍を離れたダイアナの葬儀をどうするかで王室内部でも意見が割れます。チャールズは当然、国葬を主張しますが保守的な王族は英国の伝統と慣例を重視し、さらにダイアナへの感情的軋轢もあり無視を決め込みます。そうこうするうちに攻撃的な国民感情が王室に向けられ、改革派ブレアが王室に進言します。半世紀にわたって英連邦に君臨してきた女王はどのような決断を下すのでしょうか……、というストーリーです。ウルトラリベラルのブレアの奥さんがキツくて笑えます。「オイオイ」って。

 よく言われるように日本とは王室のあり方が違うのでしょうが、よくまあここまで描けたなあって思います。王室内の会話もそうですが、女王の乱れる心象や憤りを象徴するように山河をランドローバーで爆走するヘレン・ミレンなんて最高にかっこいいです。もちろんフィクション(だと思う)ですが。
 その反面、辛辣なことを言えば、娯楽映画とはいえ、どこまで本当なのか、との疑問もあります。製作者は関係者にどれだけ取材したのでしょうか?実在の人物や実際に流れた映像や新聞も映されていますが、根底のリアリズムが欠けていたらタブロイド紙の憶測記事と何ら変わりません。

 そして関心は、誰もが抱くところに移るのです。「日本ならばどうなのだろう?」
 香淳皇后と美智子妃、美智子皇后と雅子妃の嫁・姑の確執は多くの人が指摘するところですが、もし雅子妃が離婚したら(できるかどうかわからないけど)、そしてダイアナ元妃と同じことになったら(縁起でもないって怒られそうだけど)、菊のカーテンの内側ではどういう会話が交わされるのでしょうか?

 お妃問題ではありませんが、皇族の苦悩を描いた作品として、イッセー尾形が昭和天皇を好演したアレクサンドル・ソクーロフ監督の「太陽」があります。「現人神」から「人間宣言」に至るまでの昭和天皇の苦悩を描いたものです。ロシア人監督の映画は始めて観たので作品についてはよくわかりませんでしたが(「バベル」とは違う次元で)、イッセー尾形や皇后役の桃井かおりが絶品で、その姿はまさに「人間」でした。

 しかし、どうして外国人が作るんだろう。検閲制度なんかないのに、日本人の映像作家はこういうものを撮れないのかなあ。しかも娯楽として。皇室(王室)のあり方や国民性の違いだと言ってしまえばそれまでだけど。
 私がどうしても観てみたいのは、何度も引用しますが、やはりこのやりとりについてです。
 それまでの雅子のキャリアや,そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。
 この、いわゆる「人格否定」発言を決意した皇太子の内面、背景にあった雅子妃、快く思わない天皇と秋篠宮、その周囲の葛藤を、高いレベルでエンタテインメントにできるクリエイターはいないんでしょうか。堤幸彦監督とかクドカンとかやってくれないかな。漫画ならかわぐちかいじとか。小説だったら「魔法のiらんど」のケータイ小説とかで。いつまでも大江健三郎でもないでしょうし。


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