紙切れからエールを贈る

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「テレビ朝日へ やすらぎの郷 よかったです」

病院の廊下でたまたま拾った紙片にあった言葉です。他にいくつかの要件と電話番号があったので、入院患者が見舞い客に頼んだメモでしょう。

最近のことなので、後番組の「やすらぎの刻~道」のことだと思われます。不自由な闘病生活のなかで、病室の小さなテレビに映る名優をどれだけ楽しみにしていたか、たった1行で表しています。

今も昔も、放送では「視聴者の声」は、データとして処理されます。

まず視聴率です。どこに何台あるのかわからないビデオリサーチ社の機械が置かれている家庭だけで、毎分単位で数値が計られます。

今ではSNSへの言及もビッグデータとして参考にされるそうです。噂話程度ですが、私が放送局や広告会社の人ならば、必ずやります。

ならば、番組や放送局へ直接送る感想は、統計から無視されて、読者室や視聴者センターで塩漬けされたままなのか?

そんなことないんじゃないかな?

小さいメディアであればあるほど、重視されるような気がします。

ラジオをよく聴きますが、パーソナリティがハガキやメールで寄せられた意見を、本題の合間に漏らすこともあります。目を通してくれています。

ハッシュタグ(話題を共有する記号)の付いたツイートを、放送後に読んでいるというDJの話も耳にしました。

出版はどうでしょう? 売り上げなど数字の他に、読者の声(ファンレターやアンケートカード)はどうなんでしょう。近々本を出す知り合いがいるので、聞いてみます。

困ったのは、電話を抗議ツールとして活用する連中です。

昨年の「あいちトリエンナーレ」では、芸術家や主催の実行委員会ではなく、愛知県職員に電話抗議(電凸)の刃が向き、疲弊し、それが一因で中止に追い込まれました(参考文献参照)。

ともあれ、マスメディアだけでなく、表現に関わる人は多少自意識が高いでしょうから(ユーチューバーなどはその極みでしょう)、直接感想を送ってみたらどうでしょう。

「NNNドキュメント」などのディレクターだった水島宏明氏は、よかった番組には電話や手紙を送ると、制作者のやりがいや励みになると書いていました(手元にないので間違っていたらすいません)。

大学時代の先生で、NHKでラジオドラマのプロデューサーをしていた方は、送られてきた感想の手紙に、一通ずつ返事を書くとおっしゃっていました。

若いラジオパーソナリティは、メールしか募集していないはずの番組に、イラスト付きの年賀状が何通も届いて感激していました。

広告会社の人からの話ですが、ユニークなCMでおなじみの「金鳥」の社長は、お叱りの手紙が届くと喜ぶとか。「ウチのCMはこんなに注目されている!」と。

廊下のゴミは次の日に片付けられました。願わくば、おそらくお年寄りであろう人の声が、テレビ局や、脚本家の倉本聰さんに届きますように。
…………
あいトリの「表現の不自由展・その後」と電凸については、
・岡本有佳 アライ=ヒロユキ〈編〉『あいちトリエンナーレ「展示中止事件」 表現の不自由と日本』(岩波書店)
・「美術手帖」2020年4月号
・その他の新聞、出版、ネットの記事を参考にしました。



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