公民権運動とヘイトスピーチ・試論

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 この齢になると答えが出ない問題をいくつも抱えているものです。そのうちのひとつが、なんとなくボンヤリながら考えが整理できてきましたので、不完全ながらちょっと記してみたいとおもいます。

 「大統領の執事の涙」というDVDを最近観ました。アメリカ南部で奴隷の子として育った人が、ホワイトハウスでアイゼンハワーからレーガンまで7人もの大統領に執事として仕えたという実話をもとにした話です。

 映画ファンには好評ですが、個人的にはさほど優れたものとまでは言えません。実話や人種問題をテーマにした感動巨編や政治モノならば他にも多くの傑作があります。ただひとつ、考えさせられたことがあります。

 映画は、黒人執事の生涯とアメリカの現代政治史を絡み合わせて話をしています。その縦糸となっているのが、アメリカの公民権運動です。

 主人公は南部の綿花畑で生まれ、子どもの頃から過酷な労働を強いられました。奴隷は人間としての暮らしを奪われており、いわば家畜と同じ扱いでした。そこから、人として生きる権利、すなわち公民権を要求する運動が起こっていきます。映画としては今も昔もよくある話で、それだけアメリカではまだ人種差別が根強い証でもあります。

 アメリカの人種問題について、私はまったく勉強不足で無知なのですが、この映画にあるような公民権運動が、日本でも生かされないものか、と思いながら観てました。

 いま問題になっている、いわゆる「ヘイトスピーチ」についてです。


 ヘイトスピーチについてはあちこちで問題になっているので、ここで書くまでもないでしょう。私もヘドが出る描写はしたくありません。以前より問題視している国会議員や市民団体、学者などから法規制を求める動きがあり、国連も勧告を出しています。

 私は法規制に反対、というよりも慎重な立場です。規制することで表現の自由が必要以上に束縛される恐れがあるからです。また、権力がそれに乗じて自分たちに都合の悪い言動を規制しようとも限りません。「安倍晋三のバカ」だって、安倍首相にしたら「ヘイトスピーチ」と思えるでしょう。でも、そこまで規制をしたら、正当なデモ(デモンストレーション=政治的示威行為)だってできなくなります。

 規制は必要ない、現行法で十分対応可能だ、というのが消極的立場の人たちです。

 すなわち、憲法でいうと「幸福追求権」を優先するか「表現の自由」を守るか、という対立です。

 この問題はいまだに決着が付いていません。よく知られる問題は、芸能人のスキャンダル報道でプライバシー権の侵害かどうかが裁判になりますが、それでも個々の案件によって裁判所が判断するしかありません。

 そこで、映画にあった「公民権法」(人種差別禁止法)で一気に網を掛けてしまうという手段はどうだろう、と考えたのです。

 表現の自由は断固守る。しかし、その上位に差別基本法を置く。人種だけでなくさまざまな差別が日本にはあります。それらを禁止して、下位の法律も整備し、問答無用で取り締まり、各省庁や自治体は行政処分を行う。異議申し立ては裁判所、もしくは独立した機関が受け付け判断する――。

 どうでしょう。これだとヘイトスピーチもサッカー場の差別横断幕も議会の女性差別野次も一刀両断できます。

 「大統領の執事の涙」には、「リトル・ロック高校事件」という実際にあった事件が出てきます。人種差別が酷い南部のアーカンソー州では白人と黒人は別の高校に通学していました。それが違憲と判断され、同じ高校に通うことができました。ところが州兵が黒人生徒の登校を妨害し、市民も大規模な反対運動を起こしました。アイゼンハワー大統領は合衆国軍をリトル・ロックに送り込み、黒人学生を守りました。公民権運動の歴史における重大事件です。

 アーカンソー州知事は、州の自治の権利を主張し、連邦政府の不当介入を訴えることもできたでしょう。しかしアイゼンハワーは、アメリカの政治制度が保障する大統領の強大な権限により抑え込み、黒人の権利を保護しました(自治権対公民権)。これを、大統領の判断の代わりに、上位法(基本法)によって守れないかということです。

 そうは言いましてもしょせんは法律に詳しくない素人考えです。穴も隙もたっぷりあります。それでも、現実的にはこれがベターかな、とひと夏中かかって考えました。締め切り間際に考え付いた、できの悪い夏休みの宿題といったところです。

 それにしても、付き詰めれば「肌の色や国籍に関わらずみんな仲良く、人として尊重し合おう」という、小学校の先生にお説教されるレベルのことを、大の大人が悩まなくてはならないなんて、これが『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』なんて本がベストセラーになる我が日本国の姿なのだろうか。なんとも情けない限りです。

★参考にしたサイト
 ・リトル・ロック事件について 「リトルロック高校事件」(「聴く 見る 読む 考える」)他
 ・ヘイトスピーチについてのさまざまな意見について 「Listening:ヘイトスピーチ 日本、世界と温度差」(「毎日新聞」2014年8月22日付)
 ・ヘイトスピーチの法的位置付けについて 「国連人権委勧告や自民PTも 「ヘイトスピーチ」問題とは /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語」(「THE PAGE」2014年8月28日更新)


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