2020年12月31日11:56
ザッツ・エンターテインメント!≫
4月25日。政府が緊急事態宣言を発令した。街が息をひそめ、活気が消えた。そんな中、ツイッターで情報が流れた。
「小三治が配信してる!」
北海道の放送局が主催した柳家小三治の落語会が中止となり、挨拶だけネットで配信された。だが、導入部が絶品な「まくらの小三治」は、まくらだけで終わらなかった。古典の滑稽噺「千早振る」を1時間近く、きっちりと演じた。興が乗ったのか、それとも別の思惑なのか。
人間国宝・小三治の生の落語を聴ける僥倖は地方在住者にはめったにない。だが、一度も笑えなかった。ただ、スマホの画面がかすかににじんだ。
今年ほど文化・芸能を渇望したときはなかっただろう。ライブハウスが閉まり、ミニシアターが倒産の危機に瀕し、シネコンからも作品が消えた。大小問わず演劇やコンサートなどが中止となった。エンタメ関係者の悲鳴が毎日のようにネットから聞こえてきた。
危機の時は、最も弱いところから犠牲になる。リーマンショックでは大量の非正規雇用労働者が首を切られた。元から産業が脆弱だった東北地方は震災から10年経っても復興したとは言い難い。そして今年流行した新型コロナウイルスでは文化・芸能・スポーツが真っ先に影響を受けた。
拙稿「ポスト・コロナ時代のクラウドファンディング」でも書いたが、改めて日本の文化予算を記したい。
………………………………………………
令和2年度文化庁予算
1067億0900万円
……
そのうち
文化財保護など
462億9500万円(約43%)
……
芸術・芸術家支援
213億5600万円(約20%)
…………………………………………………
アベノマスク2枚
466億円(参考)
…………………………………………………
文化庁もさすがに来年度は大幅増の概算要求をしたが(「美術手帖」サイト参照)、それでもどこまで持ちこたえられるか。
だが、政府にだけ文句は言えない。演出家や劇作家がエンタメ業界への援助を求めたときに、「好きなことをやっているのに文句を言うな」とか、揚げ足を取って「他の仕事への差別だ」との声がネットで渦巻いた。政治はしょせん、民意の反映でしかない。国民が娯楽を低俗でいらないものだと思っていたら、どれだけ当事者が声を上げても、何も変わらない。
世界中を駆け巡ったドイツのモニカ・グリュッタース文化大臣の言葉を再度記そう。
まだ幸いだったことがいくつかある。ステイホーム中で、エンタテインメントの受け皿が多様化したことだ。
ひとつにはネット配信がある。Netflixなどで韓国のドラマなどが人気となり、YouTubeやTikTokから火が付いた音楽もあった。受け手が気軽に送り手となることもできた。
もうひとつはラジオだ。もともと災害時に強いと言われていたが、危機を煽るようなテレビに疲れて、気軽なおしゃべりや元気が出る音楽を流すラジオを求め、放送局へのメールも増えた。
会えないからこそ、つながっていたいのだ。
わずかに光明も見え始めた。テレビドラマ「半沢直樹」やアニメ映画「鬼滅の刃」が大ヒットし、関連グッズも人気となった。上映が延期されていた作品も好評だ。来年には別のアニメ映画や演劇も期待されている。起爆剤となってほしいと強く願う。
本年も芸能問題総合研究所をご愛顧くださいましてありがとうございました。今年は病気などで、丸一年棒に振ったようなものでした。大変なコロナ禍のなか、医療従事者にもご迷惑をお掛けしました。
テレビや映画で大好きだった方も、旅立たれました。私的にも辛い別れがありました。
その中で、ラジオにメールが採用されたことなど、些細なことでも幸せを感じました。人気アイドルに笑ってもらったり、30年以上前によくハガキを送っていた番組のアナウンサーが覚えていてくれたなど、喜びがじんわりと体に染み入ってきました。
芸能は何のためにあるのか? 芸能は不要不急なのか? 芸能総研を立ち上げる前からずっと考えてきたことでした。それを身を持って知るとは、皮肉なものです。
来年以降の見通しは、まだわかりません。世の中も、文化・芸能も、私のことも。
ただ、道端に咲いた小さな花だったり、甘味を口にして頬を赤らめる幼子だったり、そんな、ちょっとしたうれしい発見にも楽しみを見出しながら、見えない敵と戦い、乗り越えていきたいと思っています。
そうそう、小三治が噺を終えてから、いつもながらの飄然とした口調で、ネットの向こうの私たちに呼びかけました。
「がんばろうよ。がんばらなくちゃ」
はい、小三治師匠!
「小三治が配信してる!」
北海道の放送局が主催した柳家小三治の落語会が中止となり、挨拶だけネットで配信された。だが、導入部が絶品な「まくらの小三治」は、まくらだけで終わらなかった。古典の滑稽噺「千早振る」を1時間近く、きっちりと演じた。興が乗ったのか、それとも別の思惑なのか。
人間国宝・小三治の生の落語を聴ける僥倖は地方在住者にはめったにない。だが、一度も笑えなかった。ただ、スマホの画面がかすかににじんだ。
今年ほど文化・芸能を渇望したときはなかっただろう。ライブハウスが閉まり、ミニシアターが倒産の危機に瀕し、シネコンからも作品が消えた。大小問わず演劇やコンサートなどが中止となった。エンタメ関係者の悲鳴が毎日のようにネットから聞こえてきた。
危機の時は、最も弱いところから犠牲になる。リーマンショックでは大量の非正規雇用労働者が首を切られた。元から産業が脆弱だった東北地方は震災から10年経っても復興したとは言い難い。そして今年流行した新型コロナウイルスでは文化・芸能・スポーツが真っ先に影響を受けた。
拙稿「ポスト・コロナ時代のクラウドファンディング」でも書いたが、改めて日本の文化予算を記したい。
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令和2年度文化庁予算
1067億0900万円
……
そのうち
文化財保護など
462億9500万円(約43%)
……
芸術・芸術家支援
213億5600万円(約20%)
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アベノマスク2枚
466億円(参考)
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文化庁もさすがに来年度は大幅増の概算要求をしたが(「美術手帖」サイト参照)、それでもどこまで持ちこたえられるか。
だが、政府にだけ文句は言えない。演出家や劇作家がエンタメ業界への援助を求めたときに、「好きなことをやっているのに文句を言うな」とか、揚げ足を取って「他の仕事への差別だ」との声がネットで渦巻いた。政治はしょせん、民意の反映でしかない。国民が娯楽を低俗でいらないものだと思っていたら、どれだけ当事者が声を上げても、何も変わらない。
世界中を駆け巡ったドイツのモニカ・グリュッタース文化大臣の言葉を再度記そう。
芸術家と文化施設の方々は、安心していただきたい。私は、文化・クリエィティブ・メディア業界の方々の生活状況や創作環境を十分に顧慮し、皆さんを見殺しにするようなことはいたしません! われわれは皆さんのご不安をしっかり見ておりますし、文化産業とクリエイティブ領域において、財政支援や債務猶予に関する問題が起こるようであれば、個々の必要に対して対応してまいります。(「Jazz Tokyo」3月24日)
アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。(「Newsweek日本版」3月30日)
まだ幸いだったことがいくつかある。ステイホーム中で、エンタテインメントの受け皿が多様化したことだ。
ひとつにはネット配信がある。Netflixなどで韓国のドラマなどが人気となり、YouTubeやTikTokから火が付いた音楽もあった。受け手が気軽に送り手となることもできた。
もうひとつはラジオだ。もともと災害時に強いと言われていたが、危機を煽るようなテレビに疲れて、気軽なおしゃべりや元気が出る音楽を流すラジオを求め、放送局へのメールも増えた。
会えないからこそ、つながっていたいのだ。
わずかに光明も見え始めた。テレビドラマ「半沢直樹」やアニメ映画「鬼滅の刃」が大ヒットし、関連グッズも人気となった。上映が延期されていた作品も好評だ。来年には別のアニメ映画や演劇も期待されている。起爆剤となってほしいと強く願う。
本年も芸能問題総合研究所をご愛顧くださいましてありがとうございました。今年は病気などで、丸一年棒に振ったようなものでした。大変なコロナ禍のなか、医療従事者にもご迷惑をお掛けしました。
テレビや映画で大好きだった方も、旅立たれました。私的にも辛い別れがありました。
その中で、ラジオにメールが採用されたことなど、些細なことでも幸せを感じました。人気アイドルに笑ってもらったり、30年以上前によくハガキを送っていた番組のアナウンサーが覚えていてくれたなど、喜びがじんわりと体に染み入ってきました。
芸能は何のためにあるのか? 芸能は不要不急なのか? 芸能総研を立ち上げる前からずっと考えてきたことでした。それを身を持って知るとは、皮肉なものです。
来年以降の見通しは、まだわかりません。世の中も、文化・芸能も、私のことも。
ただ、道端に咲いた小さな花だったり、甘味を口にして頬を赤らめる幼子だったり、そんな、ちょっとしたうれしい発見にも楽しみを見出しながら、見えない敵と戦い、乗り越えていきたいと思っています。
そうそう、小三治が噺を終えてから、いつもながらの飄然とした口調で、ネットの向こうの私たちに呼びかけました。
「がんばろうよ。がんばらなくちゃ」
はい、小三治師匠!