君にもマインドコントロールができる

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君にもマインドコントロールができる 浜松のミニシアター「シネマイーラ」で、「スパルタの海」という映画を観ました。
 「戸塚ヨットスクール」を題材にしたノンフィクションを原作に、1983年に製作されたものの、同年に戸塚宏校長が逮捕されてお蔵入りになっていました。昨年28年ぶりにミニシアターで上映されましたが、見た人のネット評によると、かなりの衝撃を受けた人も多かったようです。
 「東京都知事 石原慎太郎推薦!!」の文字がド迫力ポスターに踊るこの映画(チラシをもらってきました。画像をクリックすると拡大します)は、戸塚ヨットスクールを賞賛するというよりも、当時の社会状況に一石を投じようとする、観客を挑発する映画のように思えました。
 客席にはエレガントじゃない尾木ママのような、教育関係者らしい人も何人かいました。もうすぐDVDも販売されますので、興味・関心のある方は賛否問わず観てみてください。当時おちゃらけた「デンセンマン」伊東四朗がテレビとは別の顔を見せています。

 なお、「戸塚ヨットスクール」が何なのかわからない人も多くなっていると思います。そういう方は各自調べてみてください。
 ちなみに、「戸塚ヨットスクール」は、刑期を終えた戸塚校長によって今も運営が続けられています。地元の東海テレビ放送によって「平成ジレンマ」という題名でドキュメンタリーが放送され、昨年映画化もされました。スクールとそれを囲む社会の変貌ぶりには戸惑うばかりです。


 今日のお題は、戸塚ヨットスクールや体罰の是非ではありません。
 最近芸能界をにぎわしている、女性漫才師の「マインドコントロール」についてです。

 芸能問題総合研究所は芸能ゴシップを扱うところではありませんが、一連の報道を見ていると、やはり違和感があります。そして、既視感があります。
 ロックバンド「X-JAPAN」のTOSHIが自己啓発セミナーの主宰者に洗脳されているとの報道が頻繁になされ、法廷闘争など芸能ニュースの枠外の事件になったことがありました。その件で、新興宗教やカルト教団に詳しいルポライター・米本和広氏が、脳科学者の著書や取材を引いて記述しています。
 それによると、脳に「前頭連合野」という「ワーキングメモリー」(思考力)の機能があるが、長時間同じことを考えさせると、苦痛が生じ、パチンと弾けてしまう(脳内物質のドーパミンが急激に増える)そうです。
 脳科学者が「洗脳セミナーはワーキングメモリー(自我)をパンクさせるのと同義語なんですよ」と述べています。(『教組逮捕―「カルト」は人を救うか』2000年)
 私は脳科学の専門家ではありませんし、報道で「洗脳」や「マインドコントロール」といった言葉もあいまいに用いられていますので、この説が正しいかどうかは留保します。

 ただ、問題になるカルト教団や団体に共通することではあります。
 米本氏が体験入会した「ヤマギシ会」でも、頭にくることがあると「なぜ腹が立つのですか?」「なぜ怒るのですか?」と長時間にわたって何度も繰り返し繰り返し問い詰められます。
 自己啓発セミナーの体験談でも同じようなことが報告されています。
 老舗である「統一教会」でも、勧誘されビデオセンターに連れていかれると、教義についてのビデオを何度も何度も見せられて、自分で判断できなくなります。これを「思考停止」と呼ぶ人もいます。
 これは私の経験ですが、悪質な絵画商法や宝石のアポイントメント商法に行ったことがあります。今から思えばいいカモなのですが、そこでは絵画は4時間、宝石は8時間も拘束され、ずっと商品の説明をされました。やんわり断ろうとしても、「でも……」「だったらこの値段では……」と粘られ、なかなか帰してもらえませんでした。
 いずれも、脳を疲弊させ、自己判断能力を奪い、別の価値(某々は救世主だ、とか、この絵はいい、とか)を植え付ける行為です。

 同じことは、スポーツでも言えます。
 こちらはもっと素人なのですが、マラソンなどの肉体的にも精神的にもハードな競技は、選手とコーチの、師弟関係を超えた信頼関係がなければ成り立たないのだそうです。有森裕子、高橋尚子らを育てた名コーチの小出義雄監督などがそうらしいです。
 他のスポーツでも、厳しいコーチや運動部の顧問が時に体罰を用いて指導しても、卒業生が慕っていたりします。これもまた、肉体や脳を疲弊させ、時間を管理され、自分で考える能力を持たせないことで、ひとつの「マインドコントロール」ではないかと思えます。

 映画「スパルタの海」を観て思ったことはそういうことです。
 ノンフィクションが原作とはいっても俳優が演技するフィクション映画なので、実像と虚構の区別があいまいですが、もしかして、教祖にグルが抱くような感情や献身的態度を見せたスクール生も、実際にいたのではないか、と思います。
 映画では家庭内暴力を頻繁に起こす高校生が何人もスクールに拉致されていきます。暴れているところを力づくで押さえられ、殴られ、棒で叩かれ、格子の付いたベッドに入れられます。トレーニングでも殴る蹴る、海に突き落とされるは当たり前です。
 主役の少年は、逆らったり逃げ出そうとしても連れ戻され、海上のボートに監禁され、そのうち犬のように従順になります。他の不良少年少女らも「更生」していきます(少なくとも、見た目だけは)。
 先の東海テレビ放送のスタッフの撮影手記『戸塚ヨットスクールは、いま』(岩波書店)に、事件直前にスクール内部を取材したときの訓練生の声が載っています。「今は感謝している」と話す彼のように、映画に出てきて社会で生活が送れるようになった「情緒障害児」(映画ではこう表現している)はきっといるのでしょう。

 戸塚ヨットスクールと似たり寄ったりのスパルタ教育を売り物にしている教育・研修はいくつもあります。厳しい規則で縛りしつけを身に着けさせる方針の高校もあります。今はやや違うらしいのですが、暴力的な指導を積極的に容認している学校もあります。軍隊式の研修方法を取り入れている企業もありますし、自前で研修カリキュラムを持たない企業から社員を受け入れている研修施設もあります。
 ある雑誌で、水垢離研修の体験ルポが載っていました。今はわかりませんが、有名な大手企業の多くが取り入れていた研修です。早朝からふんどし一丁で川の中に入った記者が、最初は怖かったけど、やっているうちに気持ち良くなっていったと書いていました。

 繰り返しますが、通俗的に用いられる「洗脳」や「マインドコントロール」といった言葉は定義も意味内容もはっきりしないまま新聞などに踊ります。ですから、簡単には言えません。
 ただ、ひとつ確かなことは、芸能人が「マインドコントロール」にかかるといったワイドショー的な芸能ニュースは、これからも繰り返し出てくるでしょう。
 これを読んでいるあなただって、「マインドコントロール」にかかる可能性はたっぷりあります。それが宗教団体か、祈祷師か、悪徳商法かはわかりませんが、誰もが被害者になる可能性があります。
 そして、あなたも簡単に「加害者」になれます。


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