2015年05月15日10:40
揺れる大阪、揺さぶられる日本~大阪都構想の現場から≫
カテゴリー │政治
大阪府知事に就任したタレント弁護士の橋下徹氏が大阪市との連携がうまくいかないことにカンシャクを起こしてぶち上げた「大阪都構想」。この奇妙奇天烈な政策をめぐって、大阪市が揺れています。
冷静に考えれば論ずるにも値しないトンデモ構想がなぜ半数近くの市民に支持されているのか?橋下氏の弁舌の力か?大阪という地域の特殊性からか?
この謎を解くべく5月13日・14日に大阪市内をかけずりまわって見聞きしたことをお伝えしていきます。
(画像はクリックすると拡大します)


大阪市役所を取材するテレビクルー。



反対派の政党、市民団体、労働組合などからもらったチラシの数々。
「忘年会の出し物だな」と自嘲していたグダグダの「ラッスンゴレライ」。後ろの車いすの人たちからわかるように、障害者団体によるパフォーマンスです。
この後「おまえらは権利ばかり主張するが自立せなあかん」と食ってかかる人がいました。大阪人の名誉のために言うと、こんな人ばかりではありません。


翌日、此花区の公園での維新の会主催のタウンミーティング。聴衆は近所のおっちゃん、おばちゃんたちがほとんど。在阪局以外も取材に訪れるなか、木陰で休みながら聴いていました。



哲学者の適菜収氏は橋下氏の手法を老人相手の催眠商法だと記していましたが、「近所に有名人が来たから見に行こう」といった牧歌的な雰囲気でした。

大阪都構想の政策への反論は多くの人がしているので触れませんが、橋下氏の話術は、とにかく上手い。それがいくら詭弁であってもです。

橋下氏は、企業も人も流出する大阪の地位低下を、自分の子どもさえ東京の大学に行くと言い出したことを例に出して嘆きます。聴衆の笑いを誘う技法でしょうが、当の本人が東京の早稲田大学に進学したことには触れずに、です。

東京府と東京市が一緒になって東京都が成立したによって栄えたと説明し、大阪もそうなるべきだと主張します。東京都の設置は1943年と意外に遅く、はるか以前から政治、経済、学術などで日本の中心でした。また、立身出世を目指す若者は東京だけでなく旧制三高(今の京大)など関西の学校にも進学し、世界的学者や日本を代表する企業経営者などを多数輩出したことも触れていません。

橋下氏は敵を作って攻撃する手法でおなじみです。この日も、大阪市議会は信用できないと聴衆に訴えていました。大阪府知事選挙に立候補するか問われて「2万%ない」と断言したのは誰だったでしょうか。どちらを信用しろというのでしょうか。

パネルを用いて立て板に水の説明を終え、賛成か反対かを選んでくれと聴衆に訴える橋下氏。ここには裏の意味があります。選ぶのは大阪市民です、つまり都構想が失敗してもすべては自己責任、自分には責任はない、ということです。学者や役人でもない庶民に公共政策の責任など取れるはずもなく、しかも自分はしっかりと逃げ道を用意しています。

嘘と矛盾と言行不一致を重ねる狡猾な橋下氏。ディベートの訓練やクリティカル・シンキング(批判的見方)のトレーニングを受けた人ならばすぐに見破れるレトリックです。でも、普通の庶民であるナニワのおっちゃん・おばちゃんたちは橋下氏の言い分を鵜呑みにしてしまうかもしれません。


事実、のどかに聴いていた聴衆からも、演説が終わると同時に拍手が沸き起こりました。ただ、大阪らしいのは、質疑応答では大阪弁での気さくな口調だったことです。するどい質問も疑問も飛び出しましたが、吉本新喜劇そのままの庶民的語り口で、インテリ相手では無類の強さを発揮するソフィスト橋下氏もたじたじの場面もありました。


案外、大阪の庶民の感情は、こんなものかもしれません。橋下氏の手法は、インテリや公務員など既得権益者をバッタバッタとなぎ倒す、例えば力道山のプロレスのようなものです。力道山が近所に来たら、カメラ片手に集まるでしょう。だからといって、その主張まで賛同するかといえば、また別の話でしょう。

上の写真は同日夕方に桃谷という下町の駅前で行われたタウンミーティングです。下校途中の高校生も多かったのですが、無視するか、立ち止まっても、スマホなどで写真を撮るだけで、「(小さな駅の)桃谷でもやるんだね」と冷ややかに受け止め声もありました。
大阪都構想は、マスコミやネットでの「空中戦」が目立ちますが、住民に深くは浸透していないのではないか、というのが私の印象です。もちろん、それが危険です。内容がよくわからないまま、「有名な人が賛成しているからそうだろう」「人気のあの人が言うから間違いない」という、何となくの「空気」で重大政策が決定される恐れがあります。
大阪で行われている「から騒ぎ」は、日本のどこでも起こる可能性があります。大阪同様に財政危機や雇用の悪化や貧困層の拡大など閉塞感が増す自治体は多くあります。外国人排斥の運動も起こっています。そんな雰囲気の中、弁舌巧みな扇動家が登場したら……。そう。今の日本はナチス台頭直前のドイツとそっくりなのです。
ナチスは民主的手続きによって登場し勢力を拡大しました。ヒトラーは民衆が生んだのです。
冷静に考えれば論ずるにも値しないトンデモ構想がなぜ半数近くの市民に支持されているのか?橋下氏の弁舌の力か?大阪という地域の特殊性からか?
この謎を解くべく5月13日・14日に大阪市内をかけずりまわって見聞きしたことをお伝えしていきます。
(画像はクリックすると拡大します)
大阪市役所を取材するテレビクルー。
反対派の政党、市民団体、労働組合などからもらったチラシの数々。
「忘年会の出し物だな」と自嘲していたグダグダの「ラッスンゴレライ」。後ろの車いすの人たちからわかるように、障害者団体によるパフォーマンスです。
この後「おまえらは権利ばかり主張するが自立せなあかん」と食ってかかる人がいました。大阪人の名誉のために言うと、こんな人ばかりではありません。
翌日、此花区の公園での維新の会主催のタウンミーティング。聴衆は近所のおっちゃん、おばちゃんたちがほとんど。在阪局以外も取材に訪れるなか、木陰で休みながら聴いていました。
哲学者の適菜収氏は橋下氏の手法を老人相手の催眠商法だと記していましたが、「近所に有名人が来たから見に行こう」といった牧歌的な雰囲気でした。
大阪都構想の政策への反論は多くの人がしているので触れませんが、橋下氏の話術は、とにかく上手い。それがいくら詭弁であってもです。
橋下氏は、企業も人も流出する大阪の地位低下を、自分の子どもさえ東京の大学に行くと言い出したことを例に出して嘆きます。聴衆の笑いを誘う技法でしょうが、当の本人が東京の早稲田大学に進学したことには触れずに、です。
東京府と東京市が一緒になって東京都が成立したによって栄えたと説明し、大阪もそうなるべきだと主張します。東京都の設置は1943年と意外に遅く、はるか以前から政治、経済、学術などで日本の中心でした。また、立身出世を目指す若者は東京だけでなく旧制三高(今の京大)など関西の学校にも進学し、世界的学者や日本を代表する企業経営者などを多数輩出したことも触れていません。
橋下氏は敵を作って攻撃する手法でおなじみです。この日も、大阪市議会は信用できないと聴衆に訴えていました。大阪府知事選挙に立候補するか問われて「2万%ない」と断言したのは誰だったでしょうか。どちらを信用しろというのでしょうか。
パネルを用いて立て板に水の説明を終え、賛成か反対かを選んでくれと聴衆に訴える橋下氏。ここには裏の意味があります。選ぶのは大阪市民です、つまり都構想が失敗してもすべては自己責任、自分には責任はない、ということです。学者や役人でもない庶民に公共政策の責任など取れるはずもなく、しかも自分はしっかりと逃げ道を用意しています。
嘘と矛盾と言行不一致を重ねる狡猾な橋下氏。ディベートの訓練やクリティカル・シンキング(批判的見方)のトレーニングを受けた人ならばすぐに見破れるレトリックです。でも、普通の庶民であるナニワのおっちゃん・おばちゃんたちは橋下氏の言い分を鵜呑みにしてしまうかもしれません。
事実、のどかに聴いていた聴衆からも、演説が終わると同時に拍手が沸き起こりました。ただ、大阪らしいのは、質疑応答では大阪弁での気さくな口調だったことです。するどい質問も疑問も飛び出しましたが、吉本新喜劇そのままの庶民的語り口で、インテリ相手では無類の強さを発揮するソフィスト橋下氏もたじたじの場面もありました。
案外、大阪の庶民の感情は、こんなものかもしれません。橋下氏の手法は、インテリや公務員など既得権益者をバッタバッタとなぎ倒す、例えば力道山のプロレスのようなものです。力道山が近所に来たら、カメラ片手に集まるでしょう。だからといって、その主張まで賛同するかといえば、また別の話でしょう。
上の写真は同日夕方に桃谷という下町の駅前で行われたタウンミーティングです。下校途中の高校生も多かったのですが、無視するか、立ち止まっても、スマホなどで写真を撮るだけで、「(小さな駅の)桃谷でもやるんだね」と冷ややかに受け止め声もありました。
大阪都構想は、マスコミやネットでの「空中戦」が目立ちますが、住民に深くは浸透していないのではないか、というのが私の印象です。もちろん、それが危険です。内容がよくわからないまま、「有名な人が賛成しているからそうだろう」「人気のあの人が言うから間違いない」という、何となくの「空気」で重大政策が決定される恐れがあります。
大阪で行われている「から騒ぎ」は、日本のどこでも起こる可能性があります。大阪同様に財政危機や雇用の悪化や貧困層の拡大など閉塞感が増す自治体は多くあります。外国人排斥の運動も起こっています。そんな雰囲気の中、弁舌巧みな扇動家が登場したら……。そう。今の日本はナチス台頭直前のドイツとそっくりなのです。
ナチスは民主的手続きによって登場し勢力を拡大しました。ヒトラーは民衆が生んだのです。