可児工業高等専門学校(略称・可児高専)

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 ……ってオヤジギャグを思いついたけど、誰もわかんねーだろーなーってGoogle検索したけど、案の定一件もヒットしなかった。
 「可児高専」はあったのに……。

 てなわけで、「可児高専」でも「蟹光線」でもない、小林多喜二の『蟹工船』です。プロレタリア文学を代表するこの本が、平成の今、ワーキングプアの気持ちを代弁するってことで売れているそうです。よく行く書店でも平積みされて、POP広告も書かれていました。そんなに大きなところでもなく、特に知的な人が行く書店でもないのですが。
 話はよく知られている通り、カニの缶詰を作るための船で作業する最底辺の労働者を描いたものです。「工船」ですから「船舶」に当たらず航海法が適用されず、また「工場」でもないため労働法の適用外です。その船で、労働監督が労働者を虐待します。
 蟹工船それ自体は多喜二の創作ではなく実際にあったものだそうで、当時の労働者がどれだけ悲惨な状況に置かれていたかがわかります。戦前のものなので文章はやや取っ付きにくいですが、そんなに難しくはありません。中篇ですので読了するのに時間もかかりません。興味のある方、ぜひ読んでみてください。

 ところが、自称リベラル(他称サヨク)の私はこれをあまり評価できませんでした。当時の労働者の置かれていた時代背景などはわかりましたが、作者の主張には共感できませんでした。

 理由は二つ。まず、労働者の怒りの矛先が見当違いのところを向いていること。作中では鬼や悪魔のごとき労働監督が非道なふるまいをします。労働者の怒りは監督に向かいますが、その監督は、蟹工船の親会社に雇われた資本家の末端でしかありません。
 現代に置き換えると、労働者と監督は、日雇い派遣社員とグッドウィルやフルキャストの営業マンの関係ということになるでしょうか。派遣会社の社員だって、過酷なノルマを背負っています。その彼らを叩いたところで、何の状況が変わると言うのでしょうか。それと同じことです。グッドウィルグループならば折口会長とか、あるいは雇い主であるキヤノンや松下の経営者を責めなくてはなりません。
 ついでながら、赤木智弘というバカが「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争」という論文を昨年発表して一部で好評だったらしいのですが、こいつも同じです。当時のスーパーエリートの丸山をひっぱたいたところでどうなるというのでしょう。戦争を起こしても政府や資本家など支配者層は何も動じないどころか、大もうけしているのは、イラク戦争のアメリカを見ればわかるでしょうに。

 で、必然的に第二の理由に行き着きます。当時ならば資本主義体制、現在ならばグローバリゼーションやネオリベラリズム・ニューエコノミーを根底から覆さなければなりません。そのためにマルクスとエンゲルスは「万国の労働者、団結せよ」と訴えたわけです。
 60年代ならばともかく、今の日本でできるわけがありません。
 理由はココに書きましたので興味のある方は読んでいただきたいのですが、今の日本人、特に「ロストジェネレーション」と呼ばれる団塊ジュニア世代以後の若い人たち(前述の赤木氏がまさにこの世代に該当)は、体制にものすごく従順なのです。『蟹工船』ブームの火付け役のひとり、雨宮処凛などはデモなどやっていますが、同調する人はごく一握り、一つまみでしかありません。
 ならば蟹工船に乗り込んだ労働者同様、資本家にこき使われている非正規雇用労働者や、極端なリストラで肉体的・精神的に追い詰められている正社員の不満はどこへ行ったかというと、例えばそれは韓国や中国の悪口を書き殴る匿名ネットユーザーになったり、職場の同僚をいじめたり、差別的言辞を振り回したり、北朝鮮の拉致に抗議するグループに入ったり、過度に先鋭的な外交・安保政策を主張したりと、すなわち自分よりより弱い者をはけ口とします。強い者、例えばアメリカや日本経団連には向かないのです。ブルーハーツの歌にありましたね、「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩く」と。

 1920年代からプロレタリア革命を志向する声は聞こえてきますが、それは今の若い人たちである私の耳には響いてこないのです。あるいは、共産主義は不満の吸収はできるけど、受け皿にはならない、ということです。共産主義ではない別の何かが今の日本には必要なのです。
 それでも、時には文学史の教科書でしか名前を知らない作者や作品に触れてみるのはいいことです。文庫で手軽に入手できますし、図書館には必ずありますから、読んでみてはいかがでしょう。
 ついでに『女工哀史』とか『あゝ野麦峠』『自動車絶望工場』とかも再ブームにならないかな?昨年の小畑健版『人間失格』のように、カバーだけ変えて、とか。


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