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2011年11月24日

『絶望の国の幸福な若者たち』のその後はどうなるか

 いやあ、身内の不幸とか風邪を引いたりとかですっかりブログから遠ざかってしまいました。
 いろいろと最近思うことがあったので、まとめてドンと紹介します。

 少し前ですが、市川海老蔵や瑛太が出た映画「一命」を観たんですね。小林正樹監督「切腹」のリメイクで、あまり客の入りはよくなかったという話ですけど、私にとってはそんなに悪くはないものでした。
 話としては、没落した浪人が、大名屋敷に出向き、庭先で切腹を願い出るという話です。
 ある浪人(瑛太)は、貧しいながらも幸せな家庭を築いていました。きれいな嫁ももらい、子宝にも恵まれました。ところがだんだん経済的に窮乏し、家族が病に冒されていきます。財産を売り、内職にあけくれ、それでも首が回らなくなった主人公は、当時流行していた「狂言切腹」に臨みます……。

 という、話にしてはこれだけですが、かなり迫ってくるものがありました。
 それは映画の力だけではなく、ちょっと前にある本を読んでいたからです。
 マクラが長くなりましたが、こちらです。


 古市憲寿さんという若い社会学者が書いた『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)という本です。
 古市さんは慶応SFCで小熊英二に、東大院で上野千鶴子、本田由紀に師事してきた現役の院生です。最近は活きのいい社会学者が多く出てきて頼もしく思えます。
 ……と書くと、私が「物わかりのいい大人」であり、若者を応援するのは「都合のいい協力者」だからだと著者に嫌味を言われそうです。同書はいわゆる「若者論」で、ステレオタイプな若者像や若者に対する言説を斜に構えた独自の文体でメッタクソに斬り捨てていきます。(同書第1章参照)。
 著者の命題は、タイトルにある通りです。ここまでひどく論評されているこの国で、若者はそれほど不幸だと感じていないのではないか?という疑問からスタートします。昨年のワールドカップや尖閣諸島デモなど若者の集う所に出向きインタビューするフィールドワークを重ね(正当な手法かどうかはとりあえず置く)、東日本大震災のときの若者の行動なども論述します。

 「あはは。日本のことはなかなかどうにもできないですけど、僕のまわりの身近な世界を、少しでもよくしていきたいとは思っています。」(巻末の俳優・佐藤健との対談)

 たしかに、戦争中に徴兵されたり戦火や窮乏に追われる時代や、「社畜」になって満員電車で会社で働かされる「ALWAYS 三丁目の夕日」の時代に比べれば、今の若者はそんなに不満はないのでしょう。
 それと同時に、「自分のまわり」以外の条件が変わったら、どうなるでしょう。
 映画「一命」を観て思ったのがそれでした。どれだけ幸せでも、住居は老朽化し、家族は病気にもなりますし老います。その時に、何のセーフティネットもない浪人は、物乞いか押し売りのような真似をして生き延びるしかありません。
 「自分のまわり」以外が――例えば親が要介護状態になったとか、住居が住めない状態になったとか、事故や病気などで働けなくなったとか――おかしくなったら、「幸福」はすぐに吹っ飛びます。

 社会学で「アノミー」という言葉があります。法学部や経済学部に落ちて社会学部しか入れなかった学生でも半年もすれば覚えてしまう、古典的な概念です。
 簡単にいえば、無秩序や混乱からくる不安や不満の状態です。それが犯罪などの社会不安や自殺などの逸脱の原因のひとつになります。
 今は幸福だと思っていても、やや感じていた不安はいつか巨大なリスクとなって襲いかかります。そのときに若者が抱えていた漠とした不安は目に見える不満に転じ、映画「一命」の海老蔵のように、社会全体がアノミックな状態になるのではないか、と、すっきりしない読後感がありました。

 著者もそのあたりは自覚的だったようで、続編ともいえるこんな本を出版しています。


 師匠格で『おひとりさまの老後』(法研)など介護分野の研究にも精を出している上野千鶴子との対談です。
 本当はこの本にも触れたかったのですが、そろそろスペースがいっぱいです。
 上野先生はあえて突き放した書き方をしていますが、正直、この本では失敗でした。新書ですから、手に取るのは身内が介護が必要になった一般の人が多いでしょう。その読者を対象とした本に「あなた何も知らないのね」という筆致はあまり賛成できません。介護保険制度なんて、必要になってから勉強する人がほとんどなのですから。
 まあ、中身はいいのでセットでご一読を。



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