2011年01月25日12:36
水樹奈々の本は「拾い物」だった≫
カテゴリー │書籍・雑誌
私はアニメやマンガに詳しいと思われていますが、それほどではありません。マニア向けはせいぜいエヴァやハルヒ、けいおんくらいで、世の中で話題のものは一応追いかけておこうくらいに思っています。
ですから、この人のことも、最近までまったく知りませんでした。
むしろ母の方が詳しかったりして、なんでオタク文化のことを知ってるの?と、びっくりしました。
この人のことを初めて知ったのは、コンビニでの店内放送でした。何かの告知を話していて、どこかで聞いた声だな~、誰だったっけ~、と買い物中に考え込んで、
「ああ、宮川大輔のグルメ番組のナレーションの人だ!」
と気付いたのが最初でした。
そんな、顔も名前も知らないけど声だけはよく知っていた大人気声優、水樹奈々の自伝エッセイ『深愛』(幻冬舎)を読みました。
これが、かなりの「拾い物」だったのです。
ですから、この人のことも、最近までまったく知りませんでした。
むしろ母の方が詳しかったりして、なんでオタク文化のことを知ってるの?と、びっくりしました。
この人のことを初めて知ったのは、コンビニでの店内放送でした。何かの告知を話していて、どこかで聞いた声だな~、誰だったっけ~、と買い物中に考え込んで、
「ああ、宮川大輔のグルメ番組のナレーションの人だ!」
と気付いたのが最初でした。
そんな、顔も名前も知らないけど声だけはよく知っていた大人気声優、水樹奈々の自伝エッセイ『深愛』(幻冬舎)を読みました。
これが、かなりの「拾い物」だったのです。
中身は彼女の31年の苦難の歴史が書かれており、正直言って、あまり読んでいて気持ちのいい内容ではありません。
彼女が元々、演歌歌手を目指していたことはよく知られています。
破天荒な父親は、物心つく前から娘を演歌歌手にさせるべく、スパルタ教育を施します。ちゃんとしたレッスンではなく、自己流で、やかましい仕事場でとにかく大声を張り上げる練習を、放課後も休日も関係なくさせます。週末にはカラオケ大会や地元の催しに出場させます。その姿は、劇画『巨人の星』の星一徹そのものです。
天才少女の噂を聞きつけ東京からやってきたスカウトの条件は、大きな大会での優勝。同級生が受験勉強に励むなか、彼女の一家は猛特訓します。
そんな特異な環境で過ごすのですから、当然、いじめの対象にもなります。シカト、冷やかし、嘲笑……。
それでも、大会で優勝し、東京の堀越高校芸能活動コースに進学します。
アイドルやタレントや伝統芸能の子息らが仕事でたびたび学校を休む中、彼女だけは仕事がなく、肩身が狭い思いをしながら学校を皆勤します。「いつデビューするの?」の教師の質問をごまかしながら、耐乏生活を送ります。
そして、内弟子生活を送っていた家に帰ると、ボイストレーナーの「先生」による「セクハラ」が待っています。
彼女は「セクハラ」と書いていますが、強制わいせつというべきものです。どちらにしても、思春期の女子高生にはあまりに辛い体験です。ストレスから暴飲暴食に走り、太ります。
さらに、所属事務所の倒産の憂き目に遭い、学校にいられなくなる危機を迎えます。
出口の見えないトンネルはもっともっと続きます。
これが、他のタレント本と異なるのは、苦労と挫折の連続であっても、あまり悲壮感は漂ってこないことです。
タレント本が苦労話を売りにするのは当たり前ですが(苦労を隠して「何にも努力しなくても成功しちゃったぜ」なんてうそぶく本は読者の共感を呼ばず、売れない)、文体、というか、彼女の場合、語り口がおだやかで、優しく、さわやかなのです。
父親の鬼訓練やカラオケ大会荒らしの場面など、私などは虐待ではないかと思うのですが、それでも、真摯さと実直さが、ときに読者の口元をニヤリとさせるのです。
彼女が「人生の宝物」と書く堀越高校芸能コースでの高校生活の描写など、その最たるものです。
実家からのわずかな仕送りと奨学金に頼っての貧しい生活ながら、クラスメイト(Wikipediaによるとともさかりえや堂本剛らと同級生らしい)との固い結束と、学校内外での楽しい思い出は、時に辛い内容を多く含みながらも、幸福な青春時代を読者に想像させます。
学校指定の高い靴下など買えないから、穴を繕い、擦り切れた部分に継ぎを当て、それでも使えなくなると、悩み迷った挙句にようやく新しいものを買うという有様でした。
昼食代もありません。コンビニのパンやおにぎりしか買えず、月末になると、友人の残り物の弁当をわけてもらい、ジュースをひと口恵んでもらうような生活でした。
それでも、貧しいながらも楽しそうな筆致です。教師の目を盗んで初めて行ったマクドナルドや、嫌いだったはずのパスタ専門店に引きずられながら行き、コンビニ弁当の付け合わせでない、本物のスパゲティを食べてその美味しさにびっくりして笑われたことなど、輝かしい青春の1ページです。
この読後感の心地よさは、おそらく、筆者が声優であることと無関係ではないはずです。
本を開くと、彼女の声が聞こえてくるのです。
信じてもらえないでしょうが、本当なのです。そして、下手な人が書いたら読むのが辛いエピソードが、彼女の声に変換すると、ユーモアや優しさになるのです。
プロってすげえ!声の力ってすげえ!読みながら何度驚愕したことでしょうか。
もし口述筆記だったらテープを手に入れてみたいし、原稿用紙に向かったものでも、朗読やオーディオブックが出たら改めて聞きたいとも思うほどです。
というか、朗読版を出版してほしいと願っています。Podcastでできないかな?
彼女の出たアニメやゲームはほとんど知らないのですが、昨年末の紅白歌合戦で、深紅のドレスと歌唱力でステージを染めたシーンを思い返しながら一気に読了してしまいました。
アニメにまったく興味のない人にも、是非読んでもらいたい本です。特にNHKの番組で彼女を知った、ウチの母のような方には。
それにしても、赤の他人に言われるのは大きなお世話ですが、彼女は良くいえば典型的な「ファザコン」、普通にいえば「だめんず・うぉ~か~」ですね。
娘を私物化して夢を勝手に託すむちゃくちゃな父を尊敬し、金にしか関心がなく弟子に手を付けようとする絵に描いたような業界ゴロに感謝の念を抱き、彼女の才能を見出したプロデューサー(この人は有能でしっかりした人)に依存する、男への耐性が少ない、恋愛については幸薄い女性です。
結婚についてもちょっと言及していますが、なんとか幸せな人と結ばれてほしいと同情します。
彼女が元々、演歌歌手を目指していたことはよく知られています。
破天荒な父親は、物心つく前から娘を演歌歌手にさせるべく、スパルタ教育を施します。ちゃんとしたレッスンではなく、自己流で、やかましい仕事場でとにかく大声を張り上げる練習を、放課後も休日も関係なくさせます。週末にはカラオケ大会や地元の催しに出場させます。その姿は、劇画『巨人の星』の星一徹そのものです。
天才少女の噂を聞きつけ東京からやってきたスカウトの条件は、大きな大会での優勝。同級生が受験勉強に励むなか、彼女の一家は猛特訓します。
そんな特異な環境で過ごすのですから、当然、いじめの対象にもなります。シカト、冷やかし、嘲笑……。
それでも、大会で優勝し、東京の堀越高校芸能活動コースに進学します。
アイドルやタレントや伝統芸能の子息らが仕事でたびたび学校を休む中、彼女だけは仕事がなく、肩身が狭い思いをしながら学校を皆勤します。「いつデビューするの?」の教師の質問をごまかしながら、耐乏生活を送ります。
そして、内弟子生活を送っていた家に帰ると、ボイストレーナーの「先生」による「セクハラ」が待っています。
彼女は「セクハラ」と書いていますが、強制わいせつというべきものです。どちらにしても、思春期の女子高生にはあまりに辛い体験です。ストレスから暴飲暴食に走り、太ります。
さらに、所属事務所の倒産の憂き目に遭い、学校にいられなくなる危機を迎えます。
出口の見えないトンネルはもっともっと続きます。
これが、他のタレント本と異なるのは、苦労と挫折の連続であっても、あまり悲壮感は漂ってこないことです。
タレント本が苦労話を売りにするのは当たり前ですが(苦労を隠して「何にも努力しなくても成功しちゃったぜ」なんてうそぶく本は読者の共感を呼ばず、売れない)、文体、というか、彼女の場合、語り口がおだやかで、優しく、さわやかなのです。
父親の鬼訓練やカラオケ大会荒らしの場面など、私などは虐待ではないかと思うのですが、それでも、真摯さと実直さが、ときに読者の口元をニヤリとさせるのです。
彼女が「人生の宝物」と書く堀越高校芸能コースでの高校生活の描写など、その最たるものです。
実家からのわずかな仕送りと奨学金に頼っての貧しい生活ながら、クラスメイト(Wikipediaによるとともさかりえや堂本剛らと同級生らしい)との固い結束と、学校内外での楽しい思い出は、時に辛い内容を多く含みながらも、幸福な青春時代を読者に想像させます。
学校指定の高い靴下など買えないから、穴を繕い、擦り切れた部分に継ぎを当て、それでも使えなくなると、悩み迷った挙句にようやく新しいものを買うという有様でした。
昼食代もありません。コンビニのパンやおにぎりしか買えず、月末になると、友人の残り物の弁当をわけてもらい、ジュースをひと口恵んでもらうような生活でした。
それでも、貧しいながらも楽しそうな筆致です。教師の目を盗んで初めて行ったマクドナルドや、嫌いだったはずのパスタ専門店に引きずられながら行き、コンビニ弁当の付け合わせでない、本物のスパゲティを食べてその美味しさにびっくりして笑われたことなど、輝かしい青春の1ページです。
この読後感の心地よさは、おそらく、筆者が声優であることと無関係ではないはずです。
本を開くと、彼女の声が聞こえてくるのです。
信じてもらえないでしょうが、本当なのです。そして、下手な人が書いたら読むのが辛いエピソードが、彼女の声に変換すると、ユーモアや優しさになるのです。
プロってすげえ!声の力ってすげえ!読みながら何度驚愕したことでしょうか。
もし口述筆記だったらテープを手に入れてみたいし、原稿用紙に向かったものでも、朗読やオーディオブックが出たら改めて聞きたいとも思うほどです。
というか、朗読版を出版してほしいと願っています。Podcastでできないかな?
彼女の出たアニメやゲームはほとんど知らないのですが、昨年末の紅白歌合戦で、深紅のドレスと歌唱力でステージを染めたシーンを思い返しながら一気に読了してしまいました。
アニメにまったく興味のない人にも、是非読んでもらいたい本です。特にNHKの番組で彼女を知った、ウチの母のような方には。
それにしても、赤の他人に言われるのは大きなお世話ですが、彼女は良くいえば典型的な「ファザコン」、普通にいえば「だめんず・うぉ~か~」ですね。
娘を私物化して夢を勝手に託すむちゃくちゃな父を尊敬し、金にしか関心がなく弟子に手を付けようとする絵に描いたような業界ゴロに感謝の念を抱き、彼女の才能を見出したプロデューサー(この人は有能でしっかりした人)に依存する、男への耐性が少ない、恋愛については幸薄い女性です。
結婚についてもちょっと言及していますが、なんとか幸せな人と結ばれてほしいと同情します。